うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

ナチュラルボーンチキン 金原ひとみ 著

こりゃすごい。初めて「これ文字で読んじゃったけどオーディブルだったらもっとドキドキしただろうな」という感想を抱きました。(PR TIMES のページの末尾で音声で冒頭を読む・聴くことができます)

 

ここ数年で読んだ現代小説では、『コンビニ人間』以来じゃないか。そんな感覚が起こる読書時間で、前半は読み進めにくいと思っていたのに後半は読み進めずにはいられないリアリティ。

音声版ファーストの小説とのことで、読んでなるほどと思いました。

 

登場人物たちと同じ人生を送ってきたわけじゃないのに、局地的に自分のこれまでに人生を覗き見されていたかのような感覚になる瞬間がいくつもあって、ドキドキしました。

 

これはあらすじを読まずに知られるといい本と思うので、物語に触れないように他の有名な物語を想起しながら書くと、映画『PERFECT DAYS』で明かされない主人公の過去って、それが女性版だったらきっとこういうものだし、小説『82年生まれ、キム・ジヨン』で書かれきらなかったことも、こういうこと。

 

新年度でスケジュールがギッチギチなタイミングで読んでいたのだけど、この本のために20分しかないけどカフェに入る! と迷わず行動させる吸引力でした。

内容は、言いたいけど言わない。言いたい。言えない。

物語に触れないところを一箇所だけ引用します。

 

どうして一瞬でもあんなものが欲しいと思えたのか不思議でならない。でも実際に、個人的に本当に欲しいものなんて人にはないのかもしれない。その時々に置かれている環境、自分の立場、ホルモンなども含めた体のバランス、そういったものが合わさった結果として「恋人が欲しい」「子供が欲しい」「お金が欲しい」「権力が欲しい」となるのであって、結局のところ、許せないものはあったとしても、手に入れなければならないものなど、人間にはないのかもしれない。あるいは、許せないものを許さないために、何かを手に入れたいと思うことはあるかもしれないけれど。

 

「あるいは」からの一文の鋭さと、このパンチを生み出すまでの流れの重量感が、ドスーンときます。だけど嫌じゃない。

 

  *   *   *

 

この小説は昨今の本のあの嫌な帯がないのも良くて、著者本人が帯に「この小説は中年版『君たちはどう生きるか』です」と書いています。

この物語の主人公がどんな思いを抱えた状態で現在に至っているのか。

なんで決まった服を着るスティーブ・ジョブズみたいになっちゃったのか。

 

戦ってくれた皆、ありがとう。私は何もできなかったけれど。そんな思いを抱えたまま、私はいつしかしょぼくれた中年女性になった。

 

これはわたしだ。

そう思ったわたしのように、この本を読んでそう思う人って多いと思うの。

「そんなことないよー」と言って欲しいわけじゃなくて、そういう話じゃなくて。そーゆー話じゃねえんだわよ。

こればっかりは、読まなければわからない。

なので一言。

おもしろかったー!