うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

人間失格 太宰治と3人の女たち(映画)

求められると、つい。

「断れない」という感情はどこでどう種火に油が注がれて煽られて取り返しがつかなくなるのか。太宰治はこのメカニズムをとことん掘り下げるから毒だ。やっぱり毒だ。

 

この映画は友人が興奮気味に感想を語っていて、その話に乗っかりたくて観ました。
わたしはその友人ほどには太宰治を好みません。気をつけているという意味で好きにならないようにしています。スポーツ新聞を読みたいけれど日経新聞を買う。わたしはそんなふうに、自分を厳しめに社会へ縛りつける制御を趣味の範囲でもやっておかないと、やすやすと沼に堕ちます。

「その欲は認識するけれど、距離をおくのが人間です」という節度を強く打ち立てたい。この点について、映画の中で三島由紀夫がバチっと語ってくれていました。

 

話を元に戻すと、わたしは友人が「フランス映画『アメリ』の昭和レトロ版」だという家具や小物に期待いっぱいで再生ボタンを押し、数分でノックダウン。なにこのヴィジュアル。完璧すぎる。・・・と思っていると、あっという間に物語が進んでいく。
いくつもひっかかるセリフがある。だからもちろん2回観る。答え合わせをする。とんでもなく、よくできている。これは心して観なければならない。登場人物が根底に抱えるさみしさと思想の書き分け・描き分けがしっかりなされている。

脚本が映画版『紙の月』とおなじ人(早船歌江子さん)というのだから、納得のまとまり。

 


「説明臭くなく体感で入ってくる」「違和感があるならそこにも理由がある」という具合の再構築の魔術にかかるのはたのしい。丸め込もうとすることも不自然だし、丸め込まれることも不自然。その両方の不自然をこんなふうに表現するなんて!
この映画を観た後に以下を読むと、さらに背筋がゾワッとします。

この冒頭文の一部が、映画の中で絶妙なタイミングで入る。ずっと静子のフレーズを引用してきた富栄の、唯一かもしれないオリジナルな言葉。勝ったかも…と思った瞬間に思わず出た言葉。女の人って、こんなふうに馬鹿なのよ。まったくもう。
太宰治が静子の日記を読む目の真剣さに対する、富栄の日記を読む態度のどうしようもなさ。欲しいものを貪欲に手に入れることと、欲しいものの定義を自己を欺きながら書き換えていくこと。手に入れることを目的にすると、ずるくなるか馬鹿になるかしかないのか。

 

 

それにしてもちゃんと死んであげるなんて、太宰治は本物のやさ男。
あんなふうに女性の気持ちを言語化できたらモテるのは当たり前だし、引き込まれる女のほうが浅はか。わたしはこの映画を観て富栄の遺書を読むまで、ずっとそう思っていました。この譬えは意味がわからないと思う人が多いかもしれないけれど、性質としては秋元康というプロデュース業をする人との共通性を感じていたのです。

人は自分に向けられたと思うメッセージ、あなたを求めているという懇願によっていとも簡単に動かされる。さびしければさびしいほど、それを普段隠していればいるほど、動くとなればあっさり動く。太宰治はその禁じ手を安易に使いすぎな気がしていたのです。
そしてそれは先にも書いた通り、映画の中で三島由紀夫がバチっと指摘してくれていました。(←ここ大切なので二回言いました)

 

 

わたしは自分が人間のさびしさを理解したうえでそこに漬け込むやり方にブレーキを掛けない行為を嫌っていること、その手に堕ちたくないという考えが強くあること、でも堕ちたら楽しいことを少しは知ってしまっていること、その苦しみをいまも憎みながら愛着していることを、この映画を観ることで再確認しました。めちゃくちゃえぐられました。
そんな内省的な鑑賞のあとに、ファッションと髪型とインテリアと花と人を見るためだけに、また観ました。


下北沢的なおしゃれが炸裂した富栄の部屋も、伊豆の静子のベルばら的世界も、家族と暮らす日本のおうちも、そして壇蜜の店も…ぜんぶ住みたい行きたい!
大正レトロモダン×梅の花、日本家屋×真っ青な菖蒲、あじさいのコンビネーションも強烈に印象に居残りました。そして富栄の部屋の玄関に無造作に掛けられた傘と掃除用具の完璧なバランス!!! やっぱりあんたがおしゃれ番長やー!!!
わたしは冬に富栄が着ていたオレンジ色の厚手コートの薄ピンク・ボタンとポケットのふちどりパールビーズ、そしてこげ茶の襟に、完全にやられてしまいました。太宰治との出会いの場面では酒場にいたから鈍臭く見えたけど、太陽の下で見たら手に職を持つおしゃれ職業婦人のファッションをしておられる。ハイ・ウエストのワイドパンツを着こなしていたのはあの人だけ。そしてこの人だけはずっと「襟」のある服を着ている。これが襟のいらない考え方で暮らしている静子との対比にもなっていて、ニクい。
これはファッション・ブック化してほしいわ…。写真を見ながら小説を読みたい。

 

この映画は YoutubeGoogle Play で、400円で3日間観ることができます。


人間失格 太宰治と3人の女たち

 

 

わたしは Google Play で観ました。

play.google.com

 

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  • 発売日: 2020/04/02
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