うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

全員悪人  村井理子 著

正直に言う。「シニアヨガ」という言葉に、漠然とひっかりを感じてきた。
「中年ヨガ」と言われて、自分がそこへ行きたいとは思わないから。その延長で、「シニアヨガ」という文字列に対しても同じことを思う。

 

そういう思いのあれこれをぎゅっと10倍濃くしたようなことが、まさにこの本だった。
シニアが自分でシニアというのは勝手。だけどシニアと看板を掲げられたら、わたしだったら突き放されたように思う。

 


認知症でなくても、「全員悪人」みたいなマインドになった親とのコミュニケーションに苦しんでいる友人の話を、10年以上前にたて続けに聞いたことがある。親が「集団ストーカーに遭っている」と言い出したと、ほぼ同時期に、全く接点のないふたりの友人それぞれから話を聞いた。
その時に想像した友人の親御さんの気持ちに近いことが、この本の世界だった。どきどきした。

「お父さんにだって息抜きが必要ですからね!」と彼女は言うが、息抜きだなんて、まるでお父さんが窮屈な暮らしでもしているかのようだ。みんなによってたかって責められて、窮屈な思いをしているのは、この私だというのに。
(第六章 魚屋は悪人 ━━ 初夏 より)

 

 今日のことを言いつけられたら、お父さんのデイが増えてしまう。
 私が何か失敗するたびに、お父さんのデイが増え、デイが増えればお父さんはそこの職員さんと浮気をする。それだけは耐えられなかった。私はお父さんを心から愛しているのだから。
(第六章 魚屋は悪人 ━━ 初夏 より)

 

 家族の役に立たなければ、私はこの家にいる資格がない。お父さんが女性を家に入れるようになったのは、遠回しに「お前は役立たず」と私に伝えたいからなのだ。
(第七章 私は悪人 ━━ 盛夏 より)

 

 惚れた腫れただなんて、この年になったらどうでもいい。私は、裏切られるのは嫌だと言っている。私以外の家族全員が、私を嘲笑っていることに腹を立てている。
(第七章 私は悪人 ━━ 盛夏 より)

 

自分を対外的に成り立たせてきた「役割」を自分自身が疑うしんどさ。この本に書かれていることを、わたしは被害妄想と思えない。
島崎藤村が自分の姉のことを書いた『ある女の生涯』と似た読後感だけど、この本は同時代で、しかも女性の気持ちを女性が書いているものだから、ぐいぐいくる。

兄の終い』がすごくて同じ著者のこの本も読んでみたのだけど、どうしてこんなに少ない文章で、こんなに身につまされるのだろう。80歳の気持ちになった。

 

全員悪人

全員悪人

Amazon