うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

スタンフォードの自分を変える教室 ケリー・マクゴニガル 著


本屋さんに平積みで並ぶ、話題の意思・思考モノの本をざーっとスキャンするなか、とりわけヨガっぽい構成だと思って読んでみたらおもしろかった! 「そういえばこれ、同僚の机の上にあったわ〜」という人がいそうなくらいベストセラーな本だから、表紙に見覚えのある人も多そう。
先に結論。女パタンジャリ、キター!!! というような内容でした。パタンジャリーニー? 日本風で言うとパタンジャリ子さん。読み始めてすぐに、「語調がディズニーランドのアトラクションを待つときの説明のような、ザ・アメリカン調だなぁ。これで全能感万能感オチだときっついなぁ」と思っていたのですが、ベースがおそろしくサーンキャ哲学。
わたしは現代の新しい本は、レビューや著者情報をなるべく見ずに読むようにしているのですが、この本は読み始めで著者さんの経歴がとても気になりました。そしたら、スタンフォード大学の教授でもあるけれど、「International Journal of Yoga Therapy」の編集長だと。



 ヨガ本なわけだわ!



この「自分を変える教室」は、意思の働き方のパターンを科学実験結果とともに説明しながら、「自己コントロールとはなにか」について語っていくという内容です。10の授業をまとめた体裁になっています。
各章のまとめがすばらしいのですが、パタンジャリ子さんが現代人へ向けるメッセージとして、わたしの好きな、ヨーガ・スートラの2章16節「未来の苦は、回避することができる」以降の一連のくだりに匹敵するであろう部分が、以下。

<337ページ 第10章 より箇条書きにします(スートラ補正)>

  • 自己コントロールとは、自分自身のさまざまな一面を理解できるようになること。まったくちがう人間に生まれ変わることではない。
  • 自己コントロールには、私たちが自分に対してふりかざすお決まりの武器「罪悪感」「ストレス」「恥の意識」は何の役にも立たない。
  • 自分をコントロールできる人は、自分と戦ったりしない。
  • 自己コントロールを強化するための秘訣があるとすれば、科学が示していることはただひとつ、「注意を向ける力」。

なんというか、スター・ウォーズっぽく言うと、「ワンネス・ヴェーダーンタへの、サーンキャ・ヨーガの逆襲!」という感じなのであります。いぇいいぇーい!


<21ページ 「自分を変える教室」へようこそ より>
将来の自分を悲惨な運命から救う方法を模索していきます。自分の失敗のパターンを知り、それを成功の戦略に変えるには、どうすればよいのでしょうか。

パタンジャリ子さんが現世利益的にまとめたヨーガ・スートラ。わくわくしますね!



この本の第1章には、瞑想やヨガニードラの練習効果に含まれる要素「自分がほんとうに望んでいることを思い出す力」への注意の向け方が登場します。ここの重要性に、しょっぱなで触れている。そして、第2章の意志力の実験に「眠りましょう」がくる。
3章では「意志力の増減」が語られ、そこから4章への流れが絶妙。
そして、4章「罪のライセンス」では、こんな項目で授業が展開していきいます。

  • 人は「まちがった衝動」を信用する
  • 「モラル・ライセンシング」が判断を狂わせる
  • しようとしただけで、した気になってしまう
  • 人は正しいことは「したくない」と感じる
  • 自分の「言い訳」を知る
  • 脳が勝手に「やるべき目標」を切り替える
  • 「やることリスト」がやる気を奪う
  • 「なぜ」を考えれば姿勢が変わる
  • サラダを見るとジャンクフードを食べてしまう
  • 「意志が強い」と思っている人ほど失敗する
  • 「あとで取り返せる」と思っていませんか?
  • 人には「明日はもっとできる」と考える習性がある
  • 「明日も同じ行動をする」と考える
  • 後光効果が「罪」を「美徳」に見せかける
  • 意思を骨抜きにする「魔法の言葉」
  • 誘惑の「キーワード」を見つける
  • エコ活動が罪悪感を鈍らせる
  • 罰則をつくればルール破りが増える?

わたしはこの章が核と思っています。「マーヤー」を説いているからです。サーンキヤ・ヨーガの基本になぞらえて書かれている中で、現代の生き方へ落とし込む際に欠かせない格段にヴェーダンティックな章。自分の毒に自分で酔うのも自分の正義に自分で酔うのもマーヤーである。その言い訳に向き合え、という章であり、メサイヤ・コンプレックス(参考)への指摘の章でもあります。



第5章では、わたしが「やらない意思力」の矛先として設定すべき……

<第5章 「携帯ドーパミン装置」が生活を埋め尽くしている より>
 人間はこれまでもさまざまな依存症を経験し、夢想したり、吸引したり、注射したりしてきましたが、テクノロジーほど脳に強烈な依存症の効果をもたらしたものはないといっていいでしょう。私たちはテクノロジーのとりこで、つねにさらなる刺激を求めています。現代の特徴とも言うべきインターネット生活は報酬の予感にふり回される最たる例でしょう。私たちは情報をサーチします。さらにサーチします。それでも飽き足らずにサーチし、マウスをクリックし続けます ── まるでケージの中のラットが、こんどこそ満足感をもたらしてくれるはずの幻の報酬を求めて、何度でも電気ショックを受けようとしたように。

「テクノロジー依存」への指摘がズバリ。



第6章では、恐怖がインスタントな全能感を求める構造が説かれています。
第7章は「将来を売りとばす」という題名の章なのですが、ここの内容はいかにもアメリカ的です。浦島太郎などの昔話で「大きな玉手箱よりも小さな玉手箱」を選ぶ価値観を刷り込まれているわたしたちや、「金の斧よりも銀の斧」を刷り込まれている人には必要性が薄いかもしれない。と感じたいっぽうで、もはやアメリカ人の感覚で意志力の弱さを語ることが普通になっている部分もあり、日本人としてのアイデンティティーを感じながら読むことになる章でした。



第8章の「感染した!」がこれまたおもしろい。「感情の感染」について説かれます。ミラーニューロン細胞の働きを分解しつつ、そのよい使い方、悪い使い方について考えさせる内容。

<274ページ 肥満はこうして感染する より>
不安になるかもしれませんが、これだけははっきりしています。つまり、悪い習慣も好ましい変化も、ともに人から人へウイルスのように感染するということ。そして、その影響をまったく受けない人はいないということです。

ところどころでピシャリとくるこの感じがたまらない。


<276ページ 「他人の欲求」を自分の欲求のように感じる より>
 人間は他人と関わって生きていくようにできており、脳はそのためにうってつけの機能を備えています。ミラーニューロンという特殊な細胞があるのですが、これは、他の人たちが考えていることや感じていること、行なっていることを把握するためにのみ存在する細胞です。ミラーニューロンが脳に存在するおかげで、私たちは他人のさまざまな行動を理解することができます。

「人に神(梵)が与えてくれたはたらきを、使うのはあなた」というスタンス(にわたしは見える)で語られるこの章では、インド思想の「似たものは、似たものにより」という、古代人が追求した思考法へ科学的に切り込んでいます。わたしがケリーさんをパタンジャリ子さんと言いたくなるのは、こういうところ。



わたしは最近、感覚をメモしながら付箋を貼って読書をするのですが、
そのなかに

「ないわー」と書いてあったものもありました。


が、ここはあらためて読むと、方法としてはまだ有効な人が多いのだろうと思いました。

<299ページ 「認められたい力」を作動させる より>
 仲間の顔を心に思い描いてください。家族や友人、同僚、先生など、いつも大事なことを言ってくれる人や、あなたの成功を喜んでくれる人のことを。自分でも誇りに思えるような選択を行なったときには、フェイスブックツイッターで仲間に知らせましょう。でも、テクノロジーが嫌いな人には、直接会って話すほうがいいかもしれませんね。

この最後の一行が、わかってるなぁ(笑)。「自分のモチベーションをコントロールするため」にテクノロジーを使うのは有効だけど、感情をコントロールすることに利用していい範囲って、気をつけないとむずかしい。


この本は大き目の書店ならどこでも手に入ります。ゴールデン・ウィークになにか一冊、と思っている人は、明日本屋さんで買えちゃうのでぜひに。

スタンフォードの自分を変える教室
ケリー・マクゴニガル
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そして、書店では見かけないけど「スタンフォードの自分を変えるヨガ教室 DVD付き」なんて本まで出ている。なんてこった!



いまこの本買おうか迷ってるのに、困ったなぁ。

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