この本を読み終えたのは半年以上前で、どうやってこの感想を書こうか、ずっと考えてきました。考えているうちに三回読みました。
アガサ・クリスティの人が殺されないシリーズ(メアリ・ウェストマコットというペンネームで書かれたシリーズ)をこれまで5冊読み、この『娘は娘』を読んだ段階でシリーズに通底するものが見えました。
これはわたしの造語を使っての言いかたになるのですが、
この本は
“自己犠牲サットヴァぶりっ子” 大解剖小説
です。
大解剖だけど、メスは静かにスーッと入ります。
しかも軽妙。
同じことが『愛の重さ』という小説でも展開されていましたが、『愛の重さ』ではひとりの男性がマスター・ヨーダのようなメンター役をやっていました。
この小説『娘は娘』ではそこにC3POの役回りをこなすチャーミングな人物が加わり、マスター・ヨーダ役を女性(64歳の神経科の専門医)が担っています。
主人公(41歳)の23歳年上という設定も絶妙で、おもしろくないわけがない。
スター・ウォーズばりの魂の成長修行に近い問答が「再婚するか・しないか(結婚するか・しないか)」をテーマに展開されちゃう。
マスター・ヨーダは言います。
「犠牲で厄介なのはね、そのとき限りで終わらずに、いつまでも尾を引くことよ……」
「人生の悩み事の半分は、自分を本当の自分よりも善良な、立派な人間だと思いこもうとすることからくるのよ」
マスター・ヨーダ曰く、主人公の年齢(41歳)の頃は、孤独について考えるのに最適な年頃だそう。20歳~40歳までは生物学的に手いっぱいだったでしょ、と。
マスター・ヨーダはちょっとシニカルです。
「六十男はレコードみたいに同じことばかりしゃべるけれど、女は六十になっても──いやしくも個性を持っている女なら、興味しんしんたる人柄の人間になるはずよ」
ですって。
バランスのよい心のありかたについても語られます。
中年期を大切に。自己憐憫オバケにならないように進むこと。
真面目に書いたらけっこう重いテーマなのに、差し込まれるユーモアと会話のテンポでとにかく読ませる。アガサ・クリスティ先生すごいわー。
この小説は『春にして君を離れ』を読んでガツンときちゃった人に200%のオススメ度で推したい本でもあります。(理由は読めばわかります)