うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書 東畑開人 著

少し前に読んだ『野の医者は笑う』がとてもおもしろかったので、この本も読みました。沖縄でフィールドワークをしたくなった背景には、こんなことがあったのか!

序盤を読んでいる段階から、これは前回同様、終盤で前半のユルさが効いてくるパターンだなと思っていたのですが、想像以上でした。

 

わたしは医療関係とは全く違う仕事についていますが、著者のいう「会計の声」との距離の取り方に葛藤し続け、その度に少しずつ環境を変えてきました。

この本は「ケア」と「セラピー」について教えてくれます。

 そう、会計の声はセラピーに味方する。セラピーは変化を引き起こし、何かを手に入れようとするプロジェクトだからだ。たとえば、復職する。学校に登校しはじめる。そういうことによって、生産性が上がる。税収が増える。会計の声からすると、セラピーは何かを手に入れるための投資と捉えられる。

(会計の声 より)

この本には、セラピーよりもケアを下に見ていた著者が、なぜそう思っていたかを徹底的に見つめ直す過程が書かれています。

その見せ方の工夫がすばらしく、ケアの仕事を辞めていく二人の仲間の最終日までの過ごし方を通して説明される部分があります。

わたしも頼りにしていた先輩や仲間が立て続けに去っていくときに、その都度いろいろ思ってきました。

 

 

自分が辞めるときも同様で、まったく一緒に仕事をしたことがないけれど同じフロアで顔見知りだった人から「辞めてしまうんですね。さみしいです」と言われたことがありました。

その人は入り口の近くに座席があって、毎朝最初に挨拶してくる他部署の人間がわたしだったそうです。こういうのって、お互い「ケア」をしあっていたってことだったんだなと、この本を読んでわかりました。こういう関係は別れのときでなければ気づきません。

 

 

上記の出来事があったのと同じ職場で、まさにこの本で書かれているようなことがありました。

 ケアとセラピーは人間関係の二類型であり、本来そこには価値の高低はないはずなのだけど、でも実際のところ、会計の声は圧倒的にセラピーに好意的だ。

 あなたの職場もそうではないか? 最先端の計算をするための高価なコンピューターはぽんと購入されるけど、無償で提供されていたコーヒーはいつの間にか自動販売機で購入しなきゃいけなくなっている。投資は積極的になされても、経費は削減されていくのだ。

(会計の声 より)

経費削減がわかりやすい環境だったので、仕事で関わることのない人が挨拶をしてくれるというだけで、その人にとってわたしの存在価値が大きくなっていたのかもしれません。

 

 

この本を読んで、わたしはセラピーをかなり雑に認識していたな、とつくづく思いました。

野の医者は笑う』ではヒーリングとセラピーの境界が、この本ではケアとセラピーの境界が自伝エッセイのように語られていました。壮絶です。

内容を伝えるためにエディトリアル・デザインにも存分な趣向が凝らされていて、本気で問題提起しにきてるな、と思う本でした。