ここしばらく、ひょんなことから「ひばりちゃん映画の世界」にどっぷりハマっておりました。
わたしにとって「美空ひばり」という人物は、認知した時点ですでに大御所。赤や黒のキラキラした森英恵さんデザインの衣装を着て歌っている、 豪華すぎるおばさまでした。
同時に、この人は子役の頃からすごかったんだよという映像もスターのテレビ史のような番組で見ていて、タキシード姿で歌う姿もいちおう見たことはある程度に知っていました。
なんだけど!
アタクシこの歳になって初めて映画スターの美空ひばりさんを知り、びっくらこきました。
なかでも、ティーン時代のこの作品がおもしろすぎて。
ひばりの子守唄(1951年)
こんな作品があったのか! と思うほどおもしろい映画でした。
(Youtubeで検索すると観れちゃいます)
ケストナーの原作を日本の東京の下町バージョンで再現して、こんなふうにできちゃうなんて!
話は原作通りなのに、日本人の価値観や生きかたに沿ってみごとに再構築されています。
▼原作はエーリヒ・ケストナーの、この本です
この本の感想の最後を、わたしは自分でこう書いていました。
『おしん』と『アルプスの少女ハイジ』と『クレイマー、クレイマー』と『生徒諸君!』の眼球の奥がぎゅーっと絞られる要素を凝縮して、最高に澄んだ水と完璧な火力で調理して仕上げたなにか、みたいなすごい物語。すごいものを読んでしまった。
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こう感じる作品を日本バージョンで再現したのが『ひばりの子守唄』です。
そこでは、こんな奇跡が起きていました。
最高に粋な会話と完璧すぎる歌で再構築された、
存在の多様性と愛を伝える物語
しかも、原作の終盤で大人の読者たちが父親に対して抱く「そーゆーとこだぞ!」という感情を代弁する役として、古今亭志ん生という伝説の人物を登場させています。
サマーキャンプは林間学校で、夜に子供が歌うシーンでは美空ひばり様でしか成り立たないエピソードを盛り込み、その演技を見事にこなす「ひばりちゃん&すみれちゃん」の一人二役演技が最高です。
重要な双子の入れ替わり練習シーンの演出・楽曲もすばらしく、ひばりちゃんの歌をすみれちゃんが口パクで歌います。この映画の一年前に公開された『放浪の歌姫』で歌われた『私のボーイフレンド』という曲を元ネタにして、恋人たちの設定になっている歌詞を「子供たちみんなの歌」のバージョンに変えて歌われたようです。
それにしても。
双子の片方が下町育ちという設定に無理があるのに突き通して、日本式で回収していく強引さがすばらしいです。大衆向けの「感動コメディ」として完成されていて、脚本は渡邊一郎さんというかたが書かれています。
ケストナーの物語に独自の拡がり(義理人情)が加えられていて、このひばりちゃんバージョンは、『ふたりのロッテ』の原作を読んだことのある人と「これはこれで、おもしろいじゃないか」と語り合いたくなる映画でした。