うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

仕事に悩む君へ はたらく哲学  佐藤優 著

BUSINESS INSIDER の連載 佐藤さん、「はたらく哲学」を教えてください で知り、本を読みました。
哲学者の肖像イラスト横にちょこっと書いてあるフレーズや文字の感じもまたよくて。

 

前半はふんふんと軽快に読んでいたのですが、第4章の「負の感情の哲学」で、いっきにやられました。この章に夏目漱石の『それから』という小説の読み解きがあり、佐藤優さんがこんな指摘をされています。

問題は、代助は自分が嫉妬しているということに気づいていない、というところにあるんです。

わたしは代助が平岡を心の中で見下していることを嫉妬と思っていなかったんですよね……。
経済的自立のために実社会で行動している人に対して「俺は生活のために魂を売るようなことはしないから。社畜乙」みたいなスタンスの人をネット上で見すぎてしまって、定番の感情と思っていました。

そしてその神経症的なモノローグに、こういう自己正当化をここまで文章化しちゃうなんて、さすが夏目漱石。と思っていたのです。
でもよくよく考えてみると、この二人には「就職難のなか個人で奮闘している/就職せずに親族をあてにしている」という境界がある。

 

平岡のDV疑惑に気を取られ、そのあたりから完全に前提を見落としていました。あれはトラップだったなぁ。代助の妄想かもしれないのに。
わたしは浅い、被害者意識満載の読み方をしていた。ぎゃああああ。夏目漱石の小説はどの作品も、この種の感情を引き出すんですよね。こわいのよー。ほんと。美文に騙されちゃう。安っぽい自己弁護を麗筆で書くんだもの。

 

 

ほかにも、自分の意識について発見がありました。
わたしの輪廻思想の捉え方は、プラグマティズムと言うんですね。
当たり前にそう認識してずっとやってきたのだけど、それに名前があるとは知りませんでした。
この本は対話形式なので、とてもわかりやすいです(佐藤さんとシマオさんの対話形式になっています)

佐藤:19世紀後半に、アメリカの哲学者チャールズ・サンダース・パースは、そういう真理はただ一つに定まるのではなく、私たちが行動するに当たって、役に立つかどうかで判断されるべきだ。なぜならば私たちはいつだって間違える可能性があるのだから、と考えたのです。
 例えば、神様がいるかどうか、哲学や科学に証明できると思いますか?


シマオ:いや、信じる人にとっては「神様がいる」でしょうが、そうでない人を納得させるような証明は難しいんじゃないでしょうか。


佐藤:その通りです。パースと同時期の哲学者ウィリアム・ジェイムズは、神様がいるかどうかを証明することはできない。けれども、神様の存在を信じることで、より善く生きられる人がいるなら、「神」という概念は有用である。それでいいじゃないか、と言うのです。これがプラグマティズムの考え方です。


(第3章 仕事の哲学 やりがいとは何か より/太字の箇所は本文で太字)

これは、わたしがインドの考え方を「この世を恨まず生きることを肯定的に捉えるロジックを生み出すのに、全生物を巻き込んだ輪廻転生って、めちゃくちゃすごいアイデア」と思っていることも当てはまります。
漠然と信じているわけではなくて、採用する感じで信じてる。こういうわたしの考え方にも名前があったとは知りませんでした。

 

はぁ。。。それにしても。『それから』の過去の自分の読み方には凹みました。
仕事に悩むヤングを励ますやさしい哲学の本を読んだつもりが、自分の選択や思い込みの癖をあぶり出す診断を受けたかのよう。
自分の浅はかさを詳らかにされました。個人の読書体験に対して「そこを読み取れていないのはバイアスがかかってますよ」と教えてくれる本って、ありがたいのだけど、どうにもキツイ。
読んでよかったけど、きつかった〜。(痛気持ちいい悶絶)