うちこのヨガ日記

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お茶漬けの味(映画)

こういう人ってどうして滅びないんだろ。まだまだ偉そうに上のポジションにのさばるんだろうな……とげんなりするほど嫌いだった人をこの上なく大好きになってしまった。そんな奇跡のような経験をしました。

小津安二郎監督の映画は同じ俳優さんがよく出てくるので、観る順番によってちょっとしたバグのような反応が起こります。この「お茶漬けの味」は、ぜひとも「秋日和」のあとに観てほしい。そうすると、わたしと同じ体験ができます。

そしていつかこの映画を観ようと思っていた人は、今日はいったんここでブラウザを閉じてほしい。

(閉じて! 観る気があるなら閉じて! そしてそのあと開いて、いっしょにこの気持ちを分かち合いましょう)

 

 

(閉じた? 閉じるべき人、閉じた?)

 

 

書きます。


いやぁそれにしても、嫌いな人を好きになるって、しあわせなことです。なんで嫌いになったかを思い出せないくらい、好きになれたらしあわせ。

「なんで」嫌いになったかなって、嫌いな時には絶対に立たない問いなんですよね。だってそのときにはもう嫌いなんだもの。とにかくイヤなんだもの。そもそもはじめからちょっと嫌だった、なんて記憶のシナリオまで変えちゃいそうなくらい、勢いがついている。

 

そしてこれは不思議なことなのですが、なんで好きになったかなってのも、よくよく考えるとわからないことが多いものです。比較論抜きで説明しろと言われたら困る。なんでだろ。そういう経験、ありませんか?


この映画は、この矛盾をわからせるための長い長い助走から後半へ入ってちょっと中だるみしてからの終盤がすごくいい。酔わせるわー。あまりにもおもしろくて3回観たのですが、毎回このセリフのところで自分の感情のピークがきました。

 

 

  わかってくれりゃ 有難いんだ

 

 

「わかってくれればいいんだ」ではなく「わかってくれりゃ 有難いんだ」とくる。ぎゃー。

この映画は原作があるなら読みたいと思ったのだけど、小説や元ネタがあるわけではなく、1939年に検閲を通らなかったシナリオを戦後の変化にあわせて書き直したものだそう。それがミラクルを生み出している気がします。(余談ですが、北大路魯山人のエッセイ「お茶漬けの味」を映画の後に観ると、ちょっとおもしろく読めます)

 

この映画はあちこちに妻のセレブ指向マインドがわかる仕掛けがあって、一度では気づかないことが繰り返し観ることでいくつも出てきます。コネタの宝探しのような気持ちで観ました。

修善寺へ出かけるためにせっせとネイルをしていたり、自分のお小遣いは今も親からもらっていたり…。

住所は落合長崎なのに野球場での呼び出しが「目白の佐竹さん」となっていたことに気づいた時には、当時は落合長崎のほうまで目白と言ったのか、呼び出される側のセレブ指向をふまえて気をつかってそう言ったのか、なんて邪推モードに入ってしまいました。

小旅行から帰って来た後にやるせない気分で妻が外した指輪は中指にされていたようで、その後の場面では薬指にきらっとする指輪をしたまま。そこで結婚指輪がいまどきの結婚指輪よりも目立つサイズであったことに気づきました。

ほかにも、まだまだわたしが見つけられなかったポイントがたくさんありそう。

 

そしてタイトルにもなっているお茶漬けのシーンではもう、胸がキュンキュンどころの騒ぎではありませんでした。

久しぶりにときめきました。この強度のときめきはたぶん25年ぶりくらいです。長生きしてるなぁわたし。

 

夫が一瞬妻のご飯を盛った後に減らす動作とか、つまみ食いのしぐさのかわいらしさとか、もう完璧!!!

秋日和」ではあんなに嫌なジジイだったのに、ここまでときめかせるとは!どうなってるのサブリシン。オール巨人さんと田中角栄元首相を足して甘くしたようなサブリシン。(秋日和の時は名前を覚える気も起こらないくらい憎たらしいと思って「さわけとしのぶ」だと思っていた佐分利信←サブリシン)

 


パチンコ屋の名前も店主も、店主の歌の素朴さも最高です。わたしも甘辛人生教室に通いたい。

序盤から登場している若者の歌が、ちょっと気分が乗って歌ったにしては異様にうまくてしかも外国語で驚いたけれど、この人が鶴田浩二かと思えばなんか納得。

女子会の中にひとりものすごくイケメンの女の子がいるわ…と思ったのも、加山雄三のお母さんと知れば納得。(ほぼ同じ顔!)

そこに淡島千景も混ざってこんな豪華な女子会があるかよという序盤から、あんな話になっていくんだもんな…。すごいわ。

こんなにやさしい気持ちになれる素敵な映画とは知りませんでした。

 

お茶漬の味

お茶漬の味

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video