うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

逆境を乗り越える技術 佐藤優×石川知裕


だいぶ前のことですが、友人からこんな相談をされたことがありました。
「旦那さんが、仕事を辞めて地元に引っ込みたい。地方へ行けば生活費はおさえられる。収入は、いまはブログなどネットで稼げる時代だから。というのだけど、どう思う?」と。

わたしは「わかるなぁ…、そういうことを考えたくなる気持ち」と思いながら聞いていました。ブログで収入というのは、もしそれがアフィリエイトを想定しているのであればおおむね幻想なのだけど、幻想だと言ってしまうことにも抵抗があって。旦那さんには面と向かっては言えないことだし。
たとえばわたしの実感として月収300円なら得られるんです。あまりアフィリエイトの設定をしていないわたしにも、Googleさんは昨年毎月300円くらい、おこづかいをくれました。Amazonさんはもう少しくれました。合計1000円だったとして、月収1000円でも収入は収入。もちろんそれだけでは生活はできない。でも「収入を得られる」ことは嘘ではないというか、そういう情報商材みたいなのは、いますごく多いんですよね。そんな現実を、妻の友人からなんて聞きたくもないだろうと思うのです。


わたしにはその旦那さんの「いまのように仕事と関わることがずっと続くと想像すると、しんどい。彼女とは仲良く生活したいのだけど」という心の叫びが聞こえてくるようで、胸がギュウとなりました。これは金額の話ではないのだと思って。
この本には、サラリーパーソンのそういう気持ちへの向き合いかたともいえるトピックがたくさん出てきます。
対談しているのは元官僚に政治家というお二人で、逆境の事例もすさまじいのですが、前半はものすごく一般人向けに語ってくれています。

わたしが自分の心の定規のもちかたのような部分で10年以上かけてやっとここ数年でわかってきたことも、いくつかありました。たとえば「小説を読むこと」「古典から学ぶこと」「読むことと書くことで自分を整理すること」など。

現状の「関係」から距離をおいて、自分をほどいていくためにやれることはいろいろあるとわかっていても、いざ自分が「自責カーニバル アーンド フェスティバル!」のモードに入ってしまうと、そうもいかなくなる。いかなくなるのよね…。そういう経験のある人に、この本をぜひ読んでみてほしいです。

本は対談形式なのでいろいろな話が展開していくのですが、ひとつ引用すると、以下はわたしの周囲を見ても感じることであり、そして冒頭の友人の旦那さんの気持ちを想像したときにも深くうなずくところでした。

(第二部 平時 ── 逆境に備え、やっておくべきこと 「五○歳」はチェック・ポイント というトピック内の佐藤優さんの発言部分より)
リベラル保守」が必要なんでしょうね。根っこはやっぱり保守です。自分たちの伝統や文化を尊重したうえでリベラルな要素を出すリベラル保守。神がかりみたいな、もしくは超観念論みたいな「妄想保守」はやめたほうがいい。

わたしも、ここはいろいろな場面で感じます。ヨガ講師をしているときには、「超越」とか「ブッとんでる」みたいなフレーズを無意識に使う人に少し危うさを感じます。冒頭の旦那さんが影響を受けていると思われる "ネットで稼ぐ" の風潮にも、根っこの部分で少し似たものを感じています。
先の引用箇所の少し前に、佐藤優さんが

本当に好きなことをやっている人は、妄想を追いかけていない限りは必ずそこに現実的な手続きが入ってきます。

と話されていています。
「現実的な手続き」を踏まずに妄想を重ねることが習慣化する心のはたらきに対しては、どう伝えたら心の焦点を合わせる考えにシフトできるだろうか…などとよく考えますが、行き詰まります。そこに夢を見たくなる気持ちもわかるのでね…。



冒頭の友人の話に戻ります。
わたしに「どう思う?」と言っているのは妻のほう。
わたしは「んまぁ〜。ずいぶん人妻ぽいこと言うじゃないの」と少し思いながら、深刻になりすぎないように聞いていました。彼女が結婚をしたのは数年前で、過去をさかのぼること10年前、こんなことをおっしゃっていた。


 うちこさん、尼寺つくってよ。
 寂聴さんみたいになってよ。
 そうしたらわたし、ついていくから!


と(笑)。自分の人生のために、なんでわたしを先に出家させようとするの。
なので、旦那さんへの「わかる…」という気持ちを置いておくと、これは女友だちに共感を求める愚痴の直近バージョンという状況でもある。
将来のことを考えたら不安もあるけど、それでも生活は同世代で支えあっていて、わたしにはとてもうらやましい状況に見えます。尼寺よりも、よさそうです。ガス抜きくらいしか、わたしの出番はありません。
そんなこんなの話もしますが、わたしはこの友人の愚痴からいつも多くのインスピレーションを得ます。わたしから「話をきかせて」と思う、実行力を備えたうえで悩める人だから。
35歳を過ぎると、ライフスタイルはそれぞれみるみる変化するけれど、全く違う状況を生きていても、話せる存在でいてくれる人のなんとありがたいことよ…と感じます。わたしはあまり世間話がうまくできないので、そういう面でいろいろダメなんじゃないかと思っているところがあるのだけど、この本にはそんなわたしにも励みになるような話がたくさんありました。
どういう人を信頼して友人とすべきか、ということもたくさん語られています。そこも読みどころです。


▼今日紹介した本


(読書会のお知らせ)今回はこの流れから告知したくなりました。
古い小説から、ともに学びましょう。

初めての人も、久しぶりの人も、3年前に「門」の読書会に参加した人も、いまの自分にいっしょに潜ってみませんか。いまからなら、大丈夫。読書から離れていた人も、きっと読了できます。