うちこのヨガ日記

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リッツ・カールトンの究極のホスピタリティ 四方啓暉 著


普通に読むと「リッツのすごい話」の本なのだけど、ところどころにある「日本のホテル事業の古き商慣習とリッツ・カールトンのはざまで考えたこと」が沁みる。
特に、この二つ。

仕組みが定着・浸透するには、労力も時間も必要です。(180ページ)


「ホスピタリティ」は、「生き残りをかけて」というような言葉とともに追求されるものではありません。(219ページ)

ラグジュアリーという空気を売る。でも日本のホテル事業の収益の構成比は海外のホテルと大きく違う。
そんななか、スカイラウンジを作らなかった理由として、物理的な優先順位を貫く姿勢がいいなぁと思いました。

エレベーターにおいて、スカイラウンジに行く動線のお客さまと客室に行く動線のお客さまとが一緒になり、宿泊客のプライバシーが侵害されてしまう。(166ページ)

「別のモードの人が混ざらない」って、大切だよなぁ。この環境づくりが、いちばんむずかしい。



以下の箇所も二つの意味で印象に残りました。

 最も大切なのは、プロモーターやマネージャーの方々の仕事をいかに少なくして差し上げるかであり、それができるかどうかが私たちの値打ちを決めます。何も言わなくてもやってくれるのであれば、彼らもホテルに着いたらすぐにシャワーを浴びることができる。そうでなければ、「いちいちあれこれ指示しなければならない」となってしまうわけです。
 私は当時、セールスが仕事でしたが、その前に宿泊や宴会のマネージャーも担当していたために、ホテル内に多くの信頼できる仲間がいました。例えば、マドンナが宿泊すると、ホテル内の非常階段を昇ったり降りたりするエクササイズを欠かさなかったため、何人かに協力をお願いして、階段の途中でプロテクトしてもらうわけです。
(116ページ モノを言う日頃の人脈 より)

マドンナ、さすが…。というのと、「仕事を減らす⇒くつろぎの時間を提供する」という考えかた。



以下は、どの業界でもいえる。

 ホテルに勤めている年数が長ければ長いほど、ホテルのことやお客さまのことを知っているとは限りません。むしろお客さまのほうがホテルのことを知っている、と考える必要があります。私たちは自分のホテルのことしか知りませんが、お客さまはいろいろなホテルにおけるサービスを経験しているからです。
(57ページ 「常に向上心を持て」より)

特にホテルは「ちょっと食べてみる」というような短時間で研究・偵察できるサービスではないから、その差は広がりやすくなるのかな。



この本も前に読んだ本も、採用の話への興味がきっかけで読んだのですが、この本を読むと、リッツ・カールトンのQSP(Quality Selection Process)というものの考え方に触れることができます。

 サービス業では、「人を喜ばせたい」という気持があって、そのために自分なりの工夫を施し、そしてそれを実行することで実際に喜んでもらう──というサイクルを自然につくれる人の存在が大切です。すべてがそうした人の集まりであればいいのですが、現実は違います。


(中略)


 考え方や行動する際の判断基準は人によって違いますが、良いチームをつくるためには、できるだけそれらを同じにしていかなければうまくいかない──リッツ・カールトンはそう考えたのです。そして、自分たちが目指す理念や哲学をあらかじめ明確にし、どういう人材を求めているかを公にする。価値観や行動する際の判断基準が合わない人が無理して加わることを避けるためです。そのうえで、独自に開発したQSPを使って、リッツ・カールトンが求める人物像とマッチした人材の採用を実現するのです。
【66ページ 面接だけで判断するな より】



 心があってもうまく言葉に表わせない人もたくさんいますが、リッツ・カールトンには表現力に長けている人材が集まっています。その理由はやはり、QSPがあるからです。ものを伝える力、表現する力なども選考基準に入っており、伝えることに時間や労力を惜しまない、実際に表現できる、ユーモアがある──といった特性は、特に高く評価されます。
【214ページ 究極の人心掌握術 より】

定量化できるところは仕組みの開発を続け、「表現力」という性質を見ている。


「思った+アウトプットする」というのは大切な技術なんですよね。「思った+やる」と「思った+やらない」の間にあるものだから。そこで主体性を見ているのかもしれません。
全般「自分の意志として動けるか」というのはどの仕事でも求められるものだけど、ホテルマンには特にこういう芯のようなものが求められそう。演じきれるか、自分のスイッチをそこに入れ続ける呪文をどれだけ持っているか、というもの重要なスキルなんだろうな。


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