うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

リグ・ヴェーダ讃歌 辻 直四郎 訳(その3:性愛系)

神様系」「祭祀・生活系」に続いて3日目の今日は「性愛系」でございます。
こんな項目でまとめようと思うくらいなので、ものすごい内容です。読んでいて驚きました。リグ・ヴェーダの中には対話形式のものがいくつも登場します。男女の仲の掛け合いは「別れても好きな人」や「三年目の浮気」のようなテンポではあるのですが、内容はそんなにヤワじゃないです。
今日は「近親相姦」「DV」に関する2作品を紹介します。先日の「嫁・姑問題」もそうですが、三千年前にこんな事が書かれていることに、本当に驚く。


以下は、双子の妹「ヤミー」が兄の「ヤマ」に「抱いてくれ」とせがむお話です。

■ヤマとヤミーとの対話(一○・一○)
(冒頭解説より)
ヤマに配するその双生児ヤミー(女性)をもってし、両者の対話は人類繁殖の起源に触れているが、詩人は不倫の結末を避けている。(中略)おそらく双生児あるいは近親相姦の罪を浄めまたは予防する呪法的祭儀を予定したものかと思われる。


一 (ヤミーの言葉)われは友(ヤマ)を友情(友の努め)に返り来たらしめんと願う、たとい彼は多くの空間、海を越えて去りたりとも。指導者は父のため孫を生むべきなり、地上において遠く未来をおもんばかりて。


二 (ヤマの言葉)なが友はかかる友情を欲せず、血族の女子(妹)が異族のもの(妻)となるがごとき。偉大なるアスラの子ら、勇士たち、天の支持者たちは、広く・くまなく監視す。


三 (ヤミー)これらの不死者(神々)は正にこれを欲す、唯一の応死者(人間の祖先ヤマ)の後裔を。なが意(こころ)はわれらが意に従うべし。なれば夫として妻の身体に入らんことを。


四 (ヤマ)われらいまだかつて為さざりしこと、いかでか今なすべきや。今まで天則(正しいこと)を語りつつ、われら今虚偽(不正のこと)を蝶々するにいたらん。水の中なるガンダルヴァと水の精女(水精アプサラス)、これわれらが親縁(起源)なり、これわれらが最高の血縁なり。


五 (ヤミー)創造者は、すでに胎内においてわれらを夫婦となせり、刺激者にして・一切の形態をもつ(同時に造る)神トゥヴァシュトリは。何者ものも彼の掟を冒すことなし。われらがこのことにつき地は知る、天もまた。
※刺激者:天界におけるアプサラスの配偶。普通ヤマの父はヴィヴァスヴァット(太陽神)、母はサラニウー(トゥヴァシュトリの娘)とされる。


(中略)


九 (ヤミー)夜も昼も彼女(ヤミー)は彼にかしずかんと願う。太陽の眼をしばし欺かんと願う。対をなすわれらは、天地と同じ縁に結ばれたり。ヤミーはヤマの同胞にあるまじき行為(相姦)を、ひとりして担わんと願う(責任をとること)。


一○ (ヤマ)実にかかる後の世代も来たるべし、そのとき同胞が同胞にあるまじき行為をなさんところの。牡牛なす者になが腕を手枕とせよ。われよりほかの者を、美しき人よ、夫として求めよ。

はじめは、「なんじゃこりゃぁぁぁ!」と思いながら読んでいたのですが、途中からせつなくなってきましたよ。
でも困ったことに、うちこの脳内に浮かぶのは「マモーとミモー」。どうにも感じが出ず。
はじめは妹のヤミーの直球っぷりに「こえー」と思ったのですが、「われよりほかの者を、美しき人よ、夫として求めよ。」の兄の言葉でグッとせつなくなった。
訳者さんの注釈に、「父母と呼ばれる天地も、時に同腹の姉妹といわれる。」とあり、もうなにがなんだかよくわかりませんが、この掛け合いの記述には引き込まれてしまう。インドの古典の記述は、まあとにかく「具体的」ですね、なにもかもが。



次も、すごいんです。

■プルーラヴァス王とウルヴァシー精女との対話(一○・九五)
(冒頭解説より)
この対話体の讃歌の背後には、人間と天女との恋愛に関する神話が予測される。


(中略)


プルーラヴァス王は美しいアプサラス(水の精女)、ウルヴァシーに恋し、精女は一定の条件の下で王と地上に同棲する。王が裸体で彼女の前に現れないことが、その条件の一つであった。精女は王の子をみごもり、地上の滞留意が長びくにつれ、アプサラスの伴侶、半神族のガンダルヴァたちは、ウルヴァシーを再び天上に呼び戻すために計略用いる。(中略)あるとき王は池の中にウルヴァシーとその友達が水鳥の姿で泳いでいるのを発見し、言葉をつくして彼女の帰還を懇請する。


(中略)


四 (プルーラヴァス)彼女は財宝と活力とを舅に、もし彼が欲すれば、朝な朝な、近き家よりもたらしつつ、プルーラヴァスの住居に到りぬ。そこに彼女は満足せり、昼に夜に竹の棒(男根)もて突かれて。


五 (ウルヴァシー)日に三たび君は竹の棒をもてわれ突けり。さらにまた求めざるときにもわれを愛撫せり。プルーラヴァスよ、われは君が意志に従えり。そのとき君は、勇士よ、わがからだの支配者なりき。

イヤがってるのに、そんなことしちゃダメよぉプルーラヴァスぅ〜。なんてノリではつっこめないくらい具体的で困ります。コンマ1秒で「DV判定」。
ちなみに今日の画像はWikipediaの「Urvashi」の画像です。官能的な魅力をお持ちでいらっしゃいます。発情してしまうほうの気持ちもわからなくありません。
日本版のWikipediaの「ウルヴァシー」には、以下のようなエピソードの記述があります。

ウルヴァシーの美しさは多くの者を魅了した。ヴァルナとミトラの両神は彼女を見て欲情し、精液を漏らした。それは地上の水瓶に落ち、そこからアガスティヤとヴァシシュタの2人の聖仙が誕生したという。またカシュヤパ仙の息子ヴィバーンダカ(カシューヤパ)は沐浴中にウルヴァシーを目撃し、精液を水中に落とした。それを牝鹿が水と一緒に飲み込み、額に鹿の角を持つリシュヤ・シュリンガ(一角仙人)という息子を生んだ。しかし『マハーバーラタ』の大英雄アルジュナに求愛した時には、アルジュナは彼女が自分の先祖にあたる女性であることに気づいたために拒絶された。怒ったウルヴァシーは彼に呪いをかけたという。

ウルヴァシーを型どった「モテ・ペンダント」で、ひと儲けできそうな勢いです。
アルジュナも、先祖にあたる女性でなければ、メロメロになっていたのかな。ていうかそこで抑えられるのは、アルジュナの純朴キャラならでは。かも。


ひとりで連日大盛り上がりの「リグ・ヴェーダ讃歌」分解ログは、残り1回で終了します。


リグ・ヴェーダを何回かに分けて紹介しています
初回:神様系
2回目:生活系
4回目:宇宙開闢の歌


▼姉妹本「インド文明の曙」の感想
インド文明の曙 ― ヴェーダとウパニシャッド(1〜9章)
インド文明の曙 ― ヴェーダとウパニシャッド(10章)
ウパニシャッドから、3つの小話(「インド文明の曙」より抜粋)

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