うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

リグ・ヴェーダ讃歌 辻 直四郎 訳(その4:宇宙開闢の歌)

神様系」「祭祀・生活系」「性愛系」と、過去3回に分けてその面白すぎる内容を紹介してきた「リグ・ヴェーダ讃歌」ですが、今日はそのなかに収められているものの中でも格段にびっくりした「宇宙開闢の歌」をご紹介します。(写真はあまり深く考えていないイメージです)
けっこうあちこちで「これはすごい」と語られている名作です。過去に「インド文明の曙」(感想項目99ページ)でも軽くその内容を紹介してはいたのですが、あらためてやはりこれはとりあげておきたい。
いまから3000年以上前に書かれたインドの讃歌です。(※のところは、訳者さんの注釈)

■宇宙開闢の歌
(冒頭解説より)
冒頭の一句「無もなかりき」(nasad asit)にちなんで、ナーサッド・アーシーティア讃歌と呼ばれる。リグ・ヴェーダの哲学思想の最高峰を示すもので、神話の要素を除外し、人格化された創造神の臭味を脱し、宇宙の本源を絶対的唯一物に帰している。ただし展開の順序は正確に述べられていず、厳格な論理で律することができないため、見解の相違の起こるのはやむを得ない。しかし後の文献に見られる開闢説話と比較して考えれば、おそらく次のような順序が推定される。唯一物(と原水)── 意(思考力)── 意欲(展開への欲求)── 熱力(タパス)── 現象界。


一 そのとき(太初において)無もなかりき、有もなかりき。空界もなかりき、その上の天もなかりき。何ものか発動せし、いずこに、誰かの庇護の下(もと)に。深くして測るべからざる水は存在せりや。
※水:しばしば開闢の初頭に挙げられる原水。


二 そのとき、死もなかりき、不死もなかりき。夜と昼との標識(日月・星辰)もなかりき。かの唯一物(中性の根本原理)は、自力により風なく呼吸せり(生存の徴候)。これよりほかに何ものも存在せざりき。


三 太初において、暗黒は暗黒に蔽われたき。この一切は標識なき水波なりき。空虚に蔽われ発現しつつあるもの、かの唯一物は、熱の力により出生せり(生命の開始)。
※標識なき水波:混沌状態の描写。この大水と原水と考えれば、第一節の水に関する回答となる。
※熱の力:自己の内部に生じる熱力。


四 最初に意欲はかの唯一物に現ぜり。こは意(思考力)の第一の種子なりき。詩人ら(霊感ある聖仙たち)は熟慮して心に求め、有の親縁(起源)を無に発見せり。


五 彼ら(詩人たち)の縄尺は横に張られたり。下方はありしや、上方はありしや。射精者(能動的男性力)ありき、能力(受動的女性力)ありき。自存力(本能、女性力)は下に、許容力(男性力)は上に。
※自存力:語義に従えば、むしろ下に男性力を、上に女性力を配当する方がよい。翻訳は上下の関係を考慮した結果にすぎない。要するに唯一物が男女両性に分化し、ここに第二次的創造が始まったことを指す。


六 誰か正しく知る者ぞ、誰かここに宣言しうる者ぞ。この創造(現象界の出現)はいずこより生じ、いずこより来たれる。神々はこの世界の創造より後なり。しからば誰が創造のいずこより起こりしかを知る者ぞ。


七 この創造はいずこより起こりしや、そは誰によりて実行せられたりや、あるいはまたしからざりしや、── 最高天にありてこの世界を監視する者のみ実にこれを知る。あるいは彼もまた知らず。

「意」と「意欲」の分解! まずこれに敬礼です。そして陰陽のバランスがすでに語られている。
うちこはITの仕事をしているので、職場では「マネジメント本から得たマネジメント論」による「モチベーション」という用語をどうにも耳にしないといけないのですが、そんなこと、経営哲学だけでは語れないと思う。うちこにとってはドラッカーよりもリグ・ヴェーダのほうが、生きるヒントが多いよ。


リグ・ヴェーダを何回かに分けて紹介しています
初回:神様系
2回目:生活系
3回目:性愛系


▼姉妹本「インド文明の曙」の感想
インド文明の曙 ― ヴェーダとウパニシャッド(1〜9章)
インド文明の曙 ― ヴェーダとウパニシャッド(10章)
ウパニシャッドから、3つの小話(「インド文明の曙」より抜粋)

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