東邦大学医学部生理学教授の有田秀穂氏と、禅ヨーガ研修会主宰の高橋玄朴氏の共著。日経新聞の「武道に学ぶ呼吸法」という記事で知り、図書館で借りてみました。
もしかしたらどこかで目にしていたかもしれないけれど、セロトニン神経についてはまったく知識がなく、この本でその存在を初めて知りました。
この本にはゴルフ、野球、マラソンなどを例にその神経のはたらきについての説明がされていて、とても面白くあっという間に読んでしまいました。王選手の集中トレーニングの実例も紹介されています。呼吸のもたらすさまざまなことについて知りたい人で、ヨガには別に興味がない、という人にも読みやすい内容です。後半は丹田呼吸法の話が主になっていて、武道や人前でお話をする人には興味深い内容かと思います。サブタイトルは、このへんからきています。
大きな字で、そんなに文章量がない本なのですが、いくつか抜粋してメモした箇所を紹介します。
<34ページ 一定のリズムをもって脳の状態を作る より>
昔のぜんまい式の腕時計は耳に当てるとチャチャチャという音が聞こえました。あれは一秒間に三回ずつチャという音を出しています。セロトニン神経は、あの時計の音かそれよりも少しゆっくりとしたリズムでインパルス信号を出しつづけていることになります。他からの刺激に反応してではなく、自分から一定のリズムを刻んでいるということから、セロトニン神経は、バックグラウンド音楽のように、一種の雰囲気やムードのような状態を対象の神経に与えていることがわかります。
こういう神経があるんですね。
<49ページ セロトニン神経を鍛える (1)セロトニン神経を活性化させる方法 意識してリズムを刻む より>
約三十分間のヨーガの瞑想の前後でセロトニンがどう変わるか。修行者と普段何もしていない人とが同じように瞑想を行なって比べられました。普段修行している人はもともとのセロトニンのレベルもある程度高いのですけれども、瞑想をするとそれがさらに増えるのです。
(中略。ほかにも丹田呼吸法、ラットや自転車こぎなどの実験結果の後に)
坐禅ではお線香に火をつけて一本が燃え尽きるまでを一サイクルとして坐りますが、その時間が三十分です。長い歴史の中で坐禅の効果が出るにはこのくらいの時間が必要だとわかっているのでしょう。
坐していても少しざわついているときと、そうでないとき。その違いはセロトニンのレベルなのでしょうか。お線香が30分なのか、30分にあわせてお線香の規格があの長さなのか、ほかの国のお香も気になるところです。
<76ページ セロトニン神経を鍛える (3)スポーツとセロトニン神経──征矢英昭助教授との対談 より>
征矢:心理的にはポジティブシンキングという概念がありますけれども、いかに自分で主体的に取り組むか、これは運動だけではなくて学習などでもすべていえます。仕事に関しても運動でも、自分自身でこうやっているという自覚を持ちながらやることが、不安を取り去るための一つの条件ではないかなと思います。
ヨガも、「あ、いまここに空気が流れて気持ちがいいな」とか、「今日は右に比べて左が少し張っているかな」などとなんとなく思っている瞬間が集中であるように感じることもあり、それすらないときも。難易度の高いポーズのときは、「やろうかな」という気持ちだとできないので、「やる!」という気持ちひとつ。
<87ページ 平常心 より>
凡人は、いつも特別な心でいたいと願っています。いつも喜んでいたい。いつも幸福でありたい。いつも満足していたい。感動しつづけていたい……。ということは、自分の平常心を否定して生きていることになります。
達人は、目先の出来事にこだわらないでただ見ています。
「できないと思われたくない」「淋しい人だと思われたくない」などの感情にいつも包まれている人は、「やる!」という気持ちの引き出し方を知らないまま人生を終えるのかしら、などとたまに思います。
<134ページ 丹田呼吸法 肛門を締める より>
坐禅ではお尻を後ろに突き出して腰をきちんと立てることを推奨します。こうすることで脊椎から腰椎、仙骨にかけてのS字状のカーブが得られますので、腹筋、背筋、腸腰筋などの姿勢を維持する筋肉が全体的にしっかり力が入ります。
わたしがヨガで坐するときは坐禅とちょっと違ったりするのですが、阿字観で座布を使った三点で支える結跏趺坐を教わって、長時間ラクに坐せる形でありながら腹筋の奥は使っているバランス状態に大きなヒントを得ました。
<137ページ 呼吸法を生活習慣にする より>
歩くとき、車の運転中、電車に乗っているときなど、日常生活に組み込んだ形で呼吸法のトレーニングをするとよいでしょう。ジョギングやウォーキング、自転車などリズム性運動と結びつければ、いっそう効果が出ます。
お。これはジョグ瞑想ではないですか!(笑)
<164ページ エピローグ 著者(高橋氏)と友人の対話 プレイ前の決まった動作の秘密 より>
友: 相撲もそうじゃないかい? 立会い一秒で決まることがあるくらい勝負は早い。だけど、それまでの儀式が長いよね。
私: そうだね。四股を踏んだり、立ったり、しゃがんだり、拍手を打ったり、塩をとって撒いたり、型にはまったリズムがあるから、呼吸法を十分にできるよね。
友: それで気合が入る。
以前ここで書いたイチロー選手の話に共通していて、なるほどなぁ。と。相撲にたとえられると、しっくりきます。
先日道場で、生徒のチカコさんが「いま、禅が気になって」とおっしゃっていたのですが、ヨガをやっている人が禅の教えに興味を持つのはすごく自然な流れですね。ヨガも仏教もインドから来たものだけれど、日本ではさらにそれが神道と共存することで、より生活に根付いたすばらしい学びの環境が用意されている。ヨガをはじめてから、「日本人に生まれてよかったなぁ」と思う回数がめきめき増えています。
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