うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

六つの星星 ― 川上未映子対話集


「ヘヴン」をこれから読もうと思っている人は、まだ読まないほうがいいです。
すごくおもしろかった。こりゃ文字じゃないと、ついていけない。川上未映子さんの球を受けられるキャッチャーしか出てこないので、安心して読んでいられるのがよいです。読みたい本がいっきに増えました。

ヘヴン」と「すべて真夜中の恋人たち」の両方を読んだ人には、この本の要素が「すべて〜」の石川聖さんに注入されているのがわかって、すごくおもしろいです。
最初の対談相手の斎藤環さんが、最後に

ニューエイジにも行かず変な症状も抱え込まずということで、川上さんの場合は切断的で明晰な方向性を維持している

と語られていて、ここでの「切断的」はわたしはつかめなかったのだけど、「明晰な方向性を維持している」というのはまさに、わたしがこの作家の小説を読まずにはいられない理由そのもの。

松浦理英子さんは、『学生の頃に読んで衝撃を受けた「親指Pの修業時代」の人だ!』と、この本を読んで20年ぶりに思い出しました。あの頃は、まだ読むには早かったのだと思う。多和田葉子さんは、「"思わず" という日本語をドイツ語にするのがむずかしい」という話がおもしろく、以前サンスクリット語の「無為に陥ってはいけない」というギーターにある表現は日本語だと「やさぐれんなよ」で済むのにと思ったことを思い出しました。
このように、この対談集は言葉に関するおもしろいやりとりがいっぱい。


別の対談者の福岡伸一さんは、「生物と無生物のあいだ」という本を書く文体選択について

最初に思ったのは、教科書のように語るのはやめよう、ということ。教科書は解明された事実だけを事後的に羅列してありますが、それだと科学者たちが知りたいと思った切実さや、試行錯誤の過程がすべて抜け落ちてしまう。

と語られていて、わたしがインドの「チャラカ・サンヒター」に感動したのは賢者たち知りたいと思った切実さや、試行錯誤の過程が記録されている書の形式への感動でもあったのだな、と気づきました。


以下の会話は、まるで「すべて真夜中の恋人たち」の三束さんと冬子さんの会話のようでありながら…

川上:そうすると、スピリチュアルな人たちが言う、「生命は無限で、星も宇宙もあなたも同じなのよ……」というのは嘘ではないんだけれど……。
福岡:私の本もスピリチュアルな人たちからはそういう風に受け取られて、結構手紙が来たりするんです(笑)。
川上:私のところにも宗教の人から一杯誘いが来ます。「私がどこにあるかなんて考えなくても、私たちのところに来ればちゃんとあります」って(笑)。でもああいう人たちに「みんないずれは土や空に帰るんですよ」と言われて、たしかに正しいんだけれど、いらっと来るのはなんなんでしょうね。

最後は石川聖さん登場(どっかーん)。わたしも「正しいんだろうけど、いらっとくるのはなぜだろう」がたまにあるので、このやりとりには前のめりになった。
ぜんぶすごく濃い対談。濃いわ〜。「ヘヴン」と「すべて真夜中の恋人たち」の両方を読んだ人は、今すぐ読みましょう。めちゃくちゃおもしろいです。


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