本屋さんで立ち読みを始めたらおもしろくて購入。週末にゆっくり読むつもりだったのに、その日のうちにイッキ読みしてしまいました。立ち読み中に「TwitterやFacebookは自分がやっているような個人店には向かない。その点ブログは情報伝達の速度感として合っている」という見解が書かれていて、ものすごく納得した。わたしはどこの店主でもないけれど、この本は「ニーズとは違う要望に流されてはいないだろうか」という気持ちのときに心強い味方になってくれそう。
ライターの川上徹也さんと店主の石附浩太郎さんの共著なのですが、もともと客&店主として親交のある間柄でありながら、ライターさんの圧倒的に客観的な視点がいい。この本は行列のできるお店の話なのだけど「こうしたからこんなに成功した!」という本ではなく、「こんな失敗もあって、あんな失敗もあって、そのとき、こう考えました。今もこんなふうに泳いでいます」という内容。
適切なキャパシティと適切なニーズ対応はコントロールできるはずなんだけど、ついその過程で不安になったり欲が出たりして、いろんなことをしてしまうもの。これまでに関わってきた仕事の数々や、自分が利用者として好きなお店のあれこれを思い出したりしながら読みました。
ライターさんの、このコメントがいい。
うまくいっているときの理由はたいていあとづけで、それが本当の理由かどうかはわからない。別の理由があるかもしれないし、ただ「運」がよかっただけかもしれない。人間は「こんなふうに努力したからこんないい結果が出た」と思いたい生き物なのだろう。(209ページ)
こういう目線なので、この本には「俺は、こんなふうに時代を読んだんだ」という雰囲気がない。「うちのようなビジネスには、こういう形が向いていたのに、ちがうことをした」とか、「こういう形でやったけど、根っこが定まっていなかったのがよくなかった」とか、そういう「こうした」の数々が語られています。そして「いろいろアドバイスをもらったけれど、結局どれもあたっていない」という話もあっておもしろい。
いくつか、わたしがオリジナルのヨガクラスの構成を考えるときに思うことと重なる箇所がありました。
「多くの人は、冬にかき氷を食べるのがはじめてですから、こんなに大きいのを最後まで食べきった」という、驚きとして残るようにつくることを心掛けています。
(料理は「科学」と「経験や勘」と「技術」との融合 より)
自分が好きと思ったり楽しいと思うことを提供しようと思ったとき、「残るもののインパクト」って、はずせない要素だと思います。
嗜好の話でいうと、たとえば、お砂糖には、味をつくる調味料的な部分とは別にその料理や菓子の成り立ちの部分を支えるという役割があります。煮物のテリの部分とか、メレンゲの強度とか。シロップなら保存とか、保水力などです。そういう面を無視してまで、お客様の嗜好の面だけで砂糖の量を減らすというのは、僕は間違いだと思っています。
(「お客様の要望」と「本当のニーズ」は違う より)
ハッとしました。反省。やっぱりプールヴォッターナーサナもナバーサナも、みんなが遠い目をするからって割引してはいかんなぁ。
このほかにも、うちのようなビジネスの場合はという実例を踏まえたうえでのお話の中で、これは業種を問わず、真理だなぁと思う。
- 「変えない部分」を大事に
- 今の時代は、同業者の争いじゃない
- その人のバックボーンに左右される必要はありません
- このつながりは無理でも、このつながりだったらいい、という人もいる
- 整理券を配る前は、並んでまで食べたい人しか並ばなかった
最後のはあたりまえなんだけど、こういう状況になる場面では冷静に考えられなくなりそうなこと。
この本を読もうと思ったのは、先日新宿のベルクに行ったからというのもある。相変わらずいい感じのお店でした。(「新宿駅最後の小さなお店ベルク 個人店が生き残るには?」という本を紹介したことがあります)
小さなお店の商売哲学って、ナマナマしくておもしろい。