こんな本を待っていました。「空海さんがヨガの伝道師であったことが、これを読めばわかるよ!」と誰にでも手渡せる本に、高野山の小堀南岳堂で出会いました。現代の暮らしにあてはめて空海さんの言葉を伝えるなら、こういうこと。という「心訳」の本なのですが、なかでも「性霊集」「般若心経秘鍵」から抜いたものが良いです。
「性霊集」は特にハタ・ヨーガの古典に繋がる教えやナチュロパシー理論が多く、「般若心経秘鍵」は細密に般若心経を解説しつつも全体にヴェーダーンタの教えが漂うのですが、その感じがすごくわかりやすい一冊。「般若心経秘鍵」からのものは、ちょっと現代向けに脚色しすぎと思うものもあったけど、空海さんのヨギっぷりが全開の「性霊集」からの訳は、本当にうまいなぁと思いました。
新しい本なので、ちょっとだけ紹介します。
内面をくもらせない
自分の内側をよく見つめましょう。
内面のくもりを取り除いたとき、
心の中には満月が輝きます。
『即身成仏義』
インド思想の定番の喩えで、水の入った器に映る月の話がある。空海さんの喩えには月が多い。
瞑想とは
科学は最も低いところを見つめ、
瞑想は最も高いところを見つめる。
『般若心経秘鍵』
ずばりここ、という節があるわけではないのだけど、『般若心経秘鍵』にあるエッセンスから、なのかな。『般若心経秘鍵』には中島みゆきの「闘う君の唄を闘わない奴等が笑うだろう」と似たようなくだりが続く部分があったり、いちいち沁みる。
無欲という欲
無欲であろうとする欲望は、最も強い欲望です。
自分の欲望を受け入れたときに、無欲の瞬間が生まれます。
『性霊集』
ワードの練り方がすごい。
境界線を引かない
物質と精神の間に、いかなる境界線も引いてはなりません。
身体と身体の間に、いかなる境界線も引いてはなりません。
自分と愛する人の間に、いかなる境界線も引いてはなりません。
もし境界線を引けば、ひとつではなくなります。
愛とはひとつになることです。
『般若心経秘鍵』
般若心経のヴェーダンティックな要素を、こう語るか! と思いました。空海さんの書には、顕教と密教について線を引きたがる意見に対して分解していくものがあるのだけど、そういうときの空海さんにいつもシビれます。
この本は、文章の語調をガンコオヤジ風にして「中村天風詩集」とすればそのようになりそうな本(笑)。そのくらい、ヨガ宗・空海について知りたい人への入門書としておすすめの一冊。
帯の言葉に理趣経の意味が込められているところもステキです。
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