うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

女 山本容子 著

札幌の地下道の古本市で買いました。雑誌「婦人公論」を飾った銅版画とエッセイのまとめ本。エッセイをぜんぶを読み終えた後、これ一冊が「観察する女」の本だなぁという印象が残った。
この著者さんのはじめの印象は、よしもとばなな氏の「TSUGUMI(つぐみ)」の装丁。ピンク色の。そのあと「たけしの誰でもピカソ」に出演されていて、きれいな人だなぁ、と思っていた。

背表紙には「女の日常のなにげない瞬間を、ドラマティックに写しとる。」とある。
たしかに絵は華やかだけど、エッセイの文章は静観と追憶がさりげなく短かく語られている。「超・客観」。
自身の客観視癖を職業病だといっているくだりもあった。いつもと少しちがう服を買うときに、「自分に甘くなれない」と。鏡に服をあててみた自分の姿が、美しい人じゃなきゃいけない気がするんだって。あんなに美人なのに。

60種類の「女」のエッセイのうち、いくつか印象に残った箇所を紹介します。

<午睡の女 より>
一時間の午睡は、不思議な世界を見せてくれるので、私のように頭の中に浮遊しているイメージを静かに反芻しながら冷静に描くものを沈殿させるには、おまじないのような時間になっている。
 この半覚午睡の時間では、意識がイメージという覚めている夢と眠りの中の夢の間を往復して、身体が妙な高揚感を味わう。この時大事なのは、外部から聞こえる生活の音があることなのである。それはクリーニング屋さんの声や、近所の子供の声、電話のベルの音などだが、これが耳の遠くに存在していないと、半覚午睡の境地に行ったとは思えないのである。つまり完全な忘我の状態ではない瞬間に夢を見るということを、体験的に信じているのである。

「おまじないのような時間」「体験的に信じている」。人から見た自分ではなく、自分の状態をいつもよく観察しているんだなぁ、と思う。

<トナカイになった女 より>
カソリックの学校に通っていた著者の、学生時代のクリスマス扮装劇の話)
誰がマリア様になるのかがいつも話題になっていた。信者の生徒の中で色の白い美人に決まるのだが、私は自分にはふさわしくないと思いながらも、選ばれてみたいと
チラリと思ったりした。結局、東方の三博士の一人になって、毛糸で作った長いヒゲをつけ星を指さしながらソロリ、ソロリと馬小屋へ行く役だったが、アルバムにこの写真を見つけると、顔には出さなかったがシットという恥ずかしい気持ちが思い出されて赤面する。

「シットという恥ずかしい気持ち」。「嫉妬」がカタカナで書かれているのが印象的。そのくらい、恥ずかしいってこと。文字や言葉の選び方もおもしろい。

<立ち止まる女 より>
(南仏の旅のスナップを見て)
嬉しそうな表情は当然なのだが、写真にはまた、びっくりするほど異なった表情の私も写っていた。
 たとえば、「上を見上げる私」は、口を半開きにして筋肉のゆるんだ顔をしている。「カメラのレンズを見る私」には、鏡で見慣れた私がいる。顔の筋力の働く方向がまったく違うのである。私は表情豊かな人が好きだが、その表情は感情の表現だと思っていた。しかし、心の緊張と緩和もまた表情を豊かにしてくれていたのだ。
 旅は精神をリラックスさせるのに有効だと思っていたが、それはまた顔の筋肉の鍛錬にも良いことだということを、年を重ねて表情の幅が気になるようになった今、実感したのだった。

「年を重ねて表情の幅が気になるようになった」というのも、わかるなぁ。表情は元気がないと出てこないし、相手のことを考えた状態が、筋肉を通して出てくる。年を重ねると逆に表現力が増すぶん、表情を使わなくなるように思う。

<壁に絵を描く女 より>
 部屋の空調がコンピュータ化されたせいか、季節に合わせた部屋の「衣替え」というのがはっきりしなくなったように思う。以前なら、床の敷物や引き戸の素材を替えたり、風鈴や火鉢、あるいは掛け軸を替えたりすることが大事だった。今の生活では空調の設備の良さのおかげで、身体に対する快適さは温度と湿度という皮膚の感覚だけになり、視覚や聴覚などとは無関係になってしまった。

こういうことを大切にする感覚は忘れずにいたいのだけど、湿度の調整までコンピュータ化されてしまっている。ヘアケアもケミカル化されて、今日は髪がうねるから、あえてふんわりまとめてみようかとか、そういうこともしなくなった。



この本を読んだ後に、ネット上にあった「嵐山光三郎氏が語る山本容子」「桐野夏生氏との対談」を読みました。
「芸術家の世界なんて威張っているけど、結局はムラ意識のかたまり。みんな評論家に褒められたくてヘコヘコして……。」「何か損しているような気がするのよ。もっと女になりたい」とおっしゃってます。魅力的な女性ですね。

女 (中公文庫)
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