「ヤマト運輸」二代目社長の自伝。
引退後は障害者福祉の活動をされているそうで、最後は以下の文章でしめくくられています。
私はヤマト運輸の経営者として宅急便という結果を出し、引退した。しかし、福祉の分野ではまだ駆け出し。結果を出すのはこれからだ。
宇野千代さんみたいですね。
読んでいて前半は時代感にいまひとつ乗れず、目で追うだけのような感じでしたが、自分が利用者として知っている「クロネコヤマトの宅急便」の話のあたりからおもしろくなりました。
ちなみに、クロネコヤマトのマークは「お客様の荷物をていねいに取り扱う」という経営思想を持つアライド・ヴァン・ラインズ社に共感し、許可を得てそのようになったそうなのですが、めちゃくちゃ実写っぽいアライド社のマークはの子猫の手足がぐったりしているのが気になります。安心して脱力しているのだろうけど。
ヤマト運輸のサイン化されたデザインのほうが、残虐感がない(笑)。
なんて小ネタはさておき、いくつか心に残った箇所を紹介します。
<81ページ 駆け出し会社員時代 「安全第一、営業第二」 より>
総務部長としては、安全対策も重要な任務だった。とにかく交通事故が多かったからである。労働基準監督署から不良事業所としてにらまれ、たびたび呼び出された。ある日出向くと、木工業の優良事業所があるから勉強に行って来い、と言われた。
その会社を訪問すると、作業所に「安全第一、営業第二」という張り紙がある。経営者に話を聞くと、この工場でも以前は労災事故が多かった。人命の尊さを考えれば何としても事故を減らさなくてはならない。能率を上げろと発破をかけるだけではいけない。そう考えて、あえて能率を第二にしたのだという。なるほど、と感心した。どこの会社でも安全第一とは書いてあるが、能率第二とは書いていない。第二を示すことで、本当に安全が第一であることが分かる。
二番目を明言することって、重要な伝達方法だと思います。
<121ページ 宅急便の誕生 主婦の視点を念頭に置く より>
荷造りしないと荷物が壊れるというのは運送業者の論理で、「壊さないように運ぶのがプロの仕事でしょ」というのが主婦の論理である。
商品化の仕上げがネーミングである。私が考案した「宅急便」はピンポンを連想させて今一つという意見もあったが、宅配、速い、便利というサービス内容を具体的に表現することが大事だと思い、これに決めた。
この、消費者の理論に言葉を置き換えるのも、とっても大事。当たり前のことなのに、「ここは、公共の場。あなたの努力表現の場ではないですね。見る人にとってはどうでもいいことだし」と口にすると、「キツい人」みたいな扱いをされるのがとってもつらい毎日なので、救われました。そして、ピンポンで和んだ。
<125ページ 宅急便の誕生 「全員経営」をめざす より>
運転手には「すし屋の職人になってくれ」と呼びかけた。すし職人はカウンターの客と会話しながらネタをすすめ、注文を受けてすしを握り、おあいそもする。多能的であり、職人のきっぷが良ければ店は繁盛する。いちいち上司の指示を仰いでいたら客は興ざめだ。宅急便の運転手も同じ。だから、呼称も「セールスドライバー」に変えた。
個々のミニ経営の集積が、最強なんだよなぁ。
<130ページ クロネコ、ライオンを噛む 三越との決別 より>
三越との関係は岡田茂氏が社長になってから、大きく変わってしまった。
第一次石油ショック後、岡田氏は自社の業績悪化の対応策として、配送料金の値下げを要求してきた。それだけでなく、当社の三越専属車両が三越の配送センターを利用しているので駐車料金を徴収するという。さらに、配送担当の社員が三越の施設内に常駐しているから、事務所使用料を払えと言ってきた。
三越の業績回復までという条件ですべてを受け入れたが、約束は守られなかった。それどころか、岡田氏は無理難題を押し付けてきた。絵画や別荘地、自らプロデュースした映画の前売り券などの購入を強要してくる。三越主催の海外ツアーにも参加を強要された。
このへんからわりと戦いの歴史、武勇伝的なエピソードが出てくるのですが、この世代の人の独特の「強要へのためらいのなさ」ってのは、ノリが想像できない。そういうときに、若ぶれる(笑)。
<142ページ 官僚と闘う 政治家には頼らない より>
小渕氏に頼めば、同じ派閥の実力者で、山梨が地元の金丸信氏に取り次いでくれるだろうというわけだ。しかし、私が政治家の力を借りれば、反対業者も別の政治家に口利きを依頼するに違いない。"先生"同士は足して二で割る妥協をするだろうから、こちらの要望は完全には通らない。それでは後悔すると思ったから、政治家には頼まなかった。
後に細川政権が成立し、自民党が下野していた時、小渕氏が派閥の会合で講演してほしいと言ってきた。なぜかと私が聞くと、議員たちが運輸省を懲らしめる方法を聞きたがっているという。自民党が野党になった途端に官僚が冷たくなったので、その意趣返しをしたいとのことだった。役人も政治家も低次元なのでがっかりした。
「"先生"同士は足して二で割る妥協をするだろうから」ってのが、日本だなぁと。こんなところでも、harmony. いやこっちは accord か。(前日の日記参照)。
こういう直球の経営本は自分では買わないし図書館でも借りないのですが、「潤滑油とはあなたのこと」と言われてしまうようなOLうちことしては、男性人の「三国志」なセクショナリズムのなかで疲弊しながらも、「でも、こういう勢いなのよね。気持ちは」というのを理解するのに役立ちました。
シャンティシャンティと言いながらビジネスするヨガのみなさんも大変だと思いますが、「ヨガをする場を安定供給する」というのが、「継続は力なり」というヨガの根本価値に対して王道の向き合い方。ここをハズさなければ、多少のバランスは時代に合わせてチューニングしながらやっていくのが、現代の日本にマッチしていると思います。ヨガを求めて世界中から人が集まる場所ではないからね。
経営も、ヨガだねぇ。