うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

高峰秀子と十二人の男たち(対談集)

高峰秀子と十二人の女たち』が良かったので、この本も読みました。

比べたら「女たち」のガールズ・トークのほうがおもしろいけど、「男たち」では対談相手のトップバッターが、なんと谷崎潤一郎しょっぱなからキター!!!  という豪華さです。

高峰さんが四女役を演じた映画『細雪』を撮る直前らしく、阿部豊監督も一緒でした。

 

谷崎氏は自分の書いた小説が映画化されたものを観て、多少話が変わっていたとしても大らかに捉える人物のようです。

細雪』について阿部監督がいろんなお伺いを立てているのですが、船場言葉とか関西弁とかいうけど、言葉は常に変わっていくもの。東京と関西を行き来するようになる家族の話だから、そこはそんなに気にしなくていい。だけど着物はこだわって欲しいと話しており、想像以上にお茶目で粋な人という印象を受けました。

 

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同じく作家でいうと、三島由紀夫との対談もありました。表紙の写真に使われています。ほぼ同い年の二人です。

高峰さんはまるで弟と話しているのかと思うくらいフランクな口調で、二人ともまだ20代。これがかなりウザい感じ(笑)。自我が炸裂してめんどくさい時期の二人の様子にめまいがします。

 

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このほか、わたしが一番読みたくて読んだのは成瀬巳喜男監督との短い対談で、実際に読んで興味深かったのは水野晴郎さんとの対談でした。

映画『恍惚の人』(有吉佐和子・原作)で共演した森繁久弥さんとの対談は雑誌『主婦の友』に掲載されたもの。森繁さんが、嫁という存在は他人だから介護ができるのかな、異性だからできるのかなと話を振るのに「そんなの関係ない。エサをくれるからってだけだ」と返答している高峰さんが正直すぎてシビれます。

 

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のちに偉大な脚本家となる松山善三さんと夫婦揃っての対談もありました。松山さんは初めてのアメリカで、高峰さんは二度目。

高峰さんは7年ぶりのアメリカで、今回はエド・サリバンショーに出演したり忙しくしている、と書かれていました。

 

 

高峰さんが語る池部良さんの話がおもしろい

この本を読んだら池部良さんのイメージがガラリと変わりました。

水野晴郎さんが少し前に池部さんにインタビューをしていたそうで、高峰さんにその話をすると、こんな返答をされていました。60歳のときの話です。

 

「あんたこの頃よくテレビでちゃんとセリフしゃべってるじゃない」って言ったら「エヘヘエ」なんて、いまだに青年っぽいんですね。池部さんは、わたしの相手役で入った人なんです、そもそも。なんの映画だったかな、そろそろデコちゃんも年頃になるから、これからは相手役がいるっていうんで、相手役を選ぶことになったんです。その時に、たまたま池部鈞さんの息子で背がスラッとしたいい子が来るよと聞いて、見たら、確かにいい(笑)。もう映画は決まってたんです。「希望の青空」。山本嘉次郎さんも黒澤さんも彼をいいと言う。それで共演したの。と思ったら、兵隊に行っちゃったんです。ですから兵隊に行かなければ、ずっと二人でコンビを組んでたはず……

 

池部さんもエッセイがいいと評判の俳優さんです。兵隊に行っていたときのことも書かれているようなので、その時代のものから読んでみようかな。

わたしは小津映画の『早春』で観たときに、画面の中に一人だけアメリカ人のような人がいて驚いたのですが、やっぱりひと目で「確かにいい」ってなるよね。

 

 

池部さんネタがおもしろい その2

他の人との対談でも、池部さんの好ヴィジュアルを高峰さんがネタにしていました。

近藤日出造さんという漫画家の方との対談で、近藤さんが高峰さんにもっと女優らしくしたほうがいいとアドバイスをしています。

女優といっても撮影中は食べることしか楽しみがないから、毎日カレーライスかブリのてりやきくらいのものを食べているのよと言い、こんな話をしています。

 

近藤:まったく、撮影所の周りには粗末な食べ物屋しきゃないね。

高峰:撮影所しきゃ対象がないからですよ。池部さんなんか、ダイコンおろしを注文して味噌汁で食べてるもの。

近藤:池部良がダイコンおろしでめし食ってるのをファンが見たら、いやンなるだろうな。撮影がないとき、どんなぜいたくなもの食べてるか知らないからね。

 

わたしはこの本をきっかけに、俳優・池部良をもっと知りたくなりました。

お父さんの池部鈞さんは有名な画家で、岡本一平さんとご兄弟。なので岡本太郎さんと池部良さんはいとこ同士。(豪華すぎ!)

対談相手の近藤日出造さんは漫画家で「一平塾」出身。高峰さんの会話のちょっとした返しの中にこういう背景が潜んでいて、発見がありました。

 

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高峰さんは喋るときは喋るし、喋らないときは喋らない。

語調も相手によってだいぶ違って、キャラクターの使い分けもおおっぴら。

豪華すぎる対談集です。