友人がこの本を読んだそうで、「あの小説の主人公の元カレについてどう思った?」と訊かれました。覚えていなかったので読み直しました。
これまでに二回読んでいます。
過去の自分の感想(再読のほう)を読んだら、別の友人も同じ登場人物のことを話していたと書いてありました。わたしにとってこんなにも「どうでもいい」のはなぜだろう。頭を整理してみました。
友人たちの言う元カレ(名前は成瀬くん)と主人公(夏子)は、こんな関係性でした。
- 17歳から6年付き合って23歳で別れた。同級生。大阪に住んでいた。
- 別れの原因はセックスレスで、成瀬くんが別の女性と複数関係していたことが発覚した。
- 夏子はそもそも性交渉が苦手。成瀬くんだけが唯一の経験相手。別れてから一度も会っていなかった。
- 33歳の時に成瀬くんから突然電話がかかってきた。夏子はずっと電話番号を変えていなかった。
- 夏子は小説家(文筆)を仕事にし、独身。
- 成瀬くんは結婚し子供もいて、妻が妊娠中に起こった3.11の原発危機を理由に家族を連れて宮崎県へ移り住んだ。
- 成瀬くんは昔、小説家(あるいは文筆家)になりたかった。
- 成瀬くんは夏子の文章を新聞連載のコラムなどでたまに読んでいる。
という状況で、夏子は成瀬くんから「作家ならもっと意義のあることを書くべき」と説教をされます。成瀬くんはFacebookで原発問題について発信をしています。
・・・という流れを再認識したのだけど、
こちらから刺激すべきでない状態の人
という感想以外のものがわいてきません。
だけどそれは結論で、その前の段階については疑問もあります。
成瀬くんが夏子に電話をかけたとき、前提が
あなた、受ける人/わたし、投げる人
という関係が「固定」されていたのか、どうなのか。ここがわからない。
さらに
お前、受ける人/俺、投げる人
なのか。ここもわからない。
いずれにしても成瀬くんは「アドバイス」に近い体裁で球を投げていて、どれだけ力強く投げてもワンバウンドでしか届かない位置に夏子がいることも明白で、だからこそ全力で投げることができています。
夏子が成瀬くんにとって仕事における自己実現という面で成功者の位置にいることを、成瀬くんは「もう本とか興味がないから読まなくなってる」と言ってごまかしているけれど、それはその距離を認識しているからごまかしているのであって、夏子はそれも理解しつつ応対していたように見えます。
「君がやっていることは大したことじゃない」
「それをするならもっと意義のある◯◯をするべき」
という投げっぱなしの評価・アドバイスをする人に、わたしもこれまで遭ったことがあります。仕事でも家庭でもヨガでも。
なのでこの小説の成瀬くんを「あるある」で片付けていました。
この物語を読んでいる限り、成瀬くんの現在の発言を知っても夏子は幻滅していないように見えました。作家になりたての頃に同じように説教をしてきた編集者とのコミュニケーションの記憶も免疫として機能しています。
わたしは成瀬くんの登場場面を、夏子の成長を裏付けるエピソードのひとつとして読んだので気にならなかったようでした。
夏子が成瀬くんに「ブルペンから出直してこい」みたいなことを言わなくてよかった、33歳でそこを制御できるのは立派だな、と。
そもそも電話に出た時に、夏子が「成瀬くんが亡くなって、その知らせの電話がかかってきたのかと思った」と本人に対して言ってしまったことが成瀬くんをマウンドに上げてしまうきっかけだったと思うので、夏子も脇が甘いといえば甘い。
夏子もちょっとやらかしてるぞと思いながら読みました。