軽快に話が進む短編。モリエールのコントのようなおかしみがあって、世間がごちゃついているときにはこんな愉快な話がちょうどいい。
坂口安吾の小説に出てくる女性には、そもそも教祖向きの人が多い。「戦争と一人の女」の女(=「続戦争と一人の女」)も、「桜の森の満開の下」の女も、かなりの数の信者を集められそうだ。
この短編は宗教プロデューサーの話。その人の考えをわかっていながら幹部のような働きを担っていく人や、それも見ていながら、それでもなお信者になっていく人が、なんだかとてもかわいらしい。
信じたいから信じる人がそこにいる。そこにつかみどころがなく美しい人間を置いておけば、あとは自然に転がっていきますでしょうと、のんびり構える敏腕プロデューサー。
いつだって誰かがどこかで ”それらしい人” を求めてる。
人生をなんとか回していくために “他者からの導き” や “他者による助け” を求める気持ちって確かにあるし、その願望は、とくに絶望していなくてもあったりするもの。
これは退屈に対する警告のようにも見えるのだけど、それがちっとも説教くさくなくて愉快。
坂口安吾のこういう嫌味のなさって、ほんと素敵だよなぁと、毎回読むたびに思います。
こういうおじさんになりたい。おばさんだけど。