島崎藤村が38歳の時に同世代の友人と男四人で旅をした伊豆旅行記です。
東京から汽車で大仁まできて、そこから歩いて修善寺へ行き、そこから馬車で天城の山麓まで南下し湯ヶ島にも泊まり、下田へ。そこから船で伊東まで北上し、帰路へついています。
わたしは下田からの帰りにこの旅行記を電車の中で読みました。港の近くに泊まり、その宿がとてもよかったと書かれていました。景色について、こんな記述がありました。
奧の方の二階から眺ると、伊豆石で建てた土藏、ナマコ壁、古風な瓦屋根などが見渡される。泥鰌を賣りに來る聲が其間から起る。夕方であるのに、斯の尻下りのした泥鰌賣の聲より外には何も聞えなかつた。夕餐の煙は靜かな町の空へ上つた。
ドジョウ売りの声しか聞こえないくらい静かだったそうです。
38歳なら、ちょうど『家』を読売新聞に連載していた頃です。
お金の工面で大変そうな話が続いていたけれど、こんな楽しいこともしていたのね。そりゃそうよね。