うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

ミライの授業 瀧本哲史 著

これは14歳向けに書かれた本。子どもの頃は大人に「なんで勉強しなくちゃいけないの?」という質問をすることができたけれど、 中年になると自分自身への問いが「なんで勉強し続けなきゃいけないの?」になって、その答えは「たのしく生きていくためだよ」になる。これをずっとひとりでやることになる。ときどきしんどい。なのでこういう本を読む。

大人の勉強は、たとえば転職やジョブ・ローテーションや仕事以外の転機。わたしは旅のための調べものですら少し面倒くさいと感じるので、それも勉強の部類に入ります。
ほかにも、新しい家電、新しい端末、新しいOS、新しいアプリを使ってなにかをすること…。そんなふうに大人になってもぷち勉強は続く。いろいろやってみることで、これはあまり苦でなく習得できるとか、そういう方向がわかっていく。高校までの勉強はそれのためにあったのかなと思っていたけれど、この本の授業はもっといいことを教えてくれる。ぜんぜんそんなレベルじゃない!

 

ナイチンゲールのすごかったところは戦地で働いたことではなく、戦死のほとんどが感染症(不衛生)によるもので、撃ったり撃たれたりで死んでる人数よりも圧倒的に多い事実を証明したことだと教えてくれる。
フランシス・ベーコンの唱えた帰納法も、この本にあるような流れで説明されるとわくわくする。

 ベーコンは、議論をこねくり回す哲学ではない「観察と実験」の先に、未来を帰るような発明があり、発見があると考えました。
(ガイダンス きみたちはなぜ学ぶのか? より)

こういうの、わたしの場合はいろいろ試してみて大人になってからじゃないと刺さらなかったわ…。

ビジネス書でよく見る用語も、この本で読むとほんとうにやさしくてわかりやすい。

 トーマス・クーンは、これを『パラダイム』という言葉で説明しました。パラダイムとは、簡単に言うと「ある時代に共有された常識」といった意味の言葉です。
(5時限目 ミライは「逆風」の向こうにある より)

「ある時代」の単位がどんどん短くなっているよね。

 


終盤に近づくと、ああこれは大人向けの本でもあるのだなというのがわかってくる。
マーガレット・サッチャーの歩みの説明に、こんなアドバイスが差し込まれています。

「子をもつ母親なら家庭に入るべきだ」
 そんな偏見をもち、彼女の足を引っぱり続けたのは、頭の固い男性たちではありませんでした。むしろ、女性有権者たちのほうが、サッチャーの足を引っぱり続けたのです。みなさんが世界を変える冒険に出るときも、敵は前方にいるとは限りません。ときには後ろから矢が飛んでくることもある。これは頭に入れておいたほうがいいでしょう。
(4時限目 すべての冒険には「影の主役がいる」 より)

「小泉放談」という対談本で、上野千鶴子さんも同じこと話してたの読んだよ!(ひそひそ)

 

ちょっとほんとのこと言いすぎなくらい、このすばらしい授業はまだまだ続きます。

 みなさんが世界を変えようとするとき、自分の夢をかなえようとするとき、周囲の大人たちが応援してくれると思ったら大間違いです。大人たちが応援するのは、自分の地位を脅かさない若者だけ。つまり、「世界を変えない若者」だけです。大人たちからすれば、みなさんの手で世界を変えられることは、大迷惑なのです。
(5時限目 ミライは「逆風」の向こうにある より)

これを言ってくれる先生って、すてき。
わたしの大好きな「お菓子とビール」というサマセット・モームの小説にもこんなセリフが出てきます。

イギリスでは昔から若者に老人は賢いと繰り返し教えてきて、若者がその教えの誤りに気付く頃には老人になっているので、嘘を継続したほうが有利になるのだ。
「お菓子とビール」 モーム 著 / 行方昭夫(翻訳) 11より)

わたしはこのセリフを毎年手帳に書き写しています。

 


この本は「根性論で間違っているものは多いよ」ということの示しかたが淡々としていてすてきです。大人向けの自己啓発本はなにげに呪詛めいたフレーズが多くて読むと気分が悪くなることがあるけれど、こんなふうに超ヤング向けに事例を挙げて示してくれている本は、いい。いいわぁ。
あなたは損をしていますよ、残念な人になっていませんか? なんて、頼んでもいないのにわざわざ教えてくれる本を読むより、自分でつくる未来の話をするほうがいいもんね。

ミライの授業

ミライの授業