一度目はまじめに正座する感じで、二度目は身体全体を使ってのび太が帰宅後の六畳間でフンフンくつろぐ感じで読みました。
この本はビジネス書でありながら身体的に「それ、ある!」ということが多く書かれています。そして頭で読んでも身体で読んでも、その中間にあるメンタルの部分はやはり修練しかないのだということがよくわかる。「プラクティス」と「プラクティカル」の間にあるものを言語化しようとすると、きっとこういうことなんだろうと思いながら読みました。
練習すればできるようになる、継続すれば再現率が上がる、実際いま目の前にいる人がそれをやっている、まぎれもなくこれは現実! という機会を得ても継続のまえにその道をから逸れていくのは、そこに「 」がないから。著者はこのカッコに「根性」ではなく「イシュー」という言葉を入れて話を進めていきます。
「プラクティス」と「プラクティカル」の間にある「それ」について伝えるのは、とても難しいこと。著者は「それ」を文章と図で表現しています。すごい。まとめられるという信念を持ち続けたことがすごい。だって「それ」そのものをイシューにするというのは、神を信じる人が神を体現しようとするようなものだから。
この本を読みながら、わたしの中で一つ大きな発見がありました。それは、日本人同士が母語で行うコミュニケーションのなかで言語化のためにエネルギーを割くことの意義です。こんなことが書かれていました。
世の中の人を見ていると、「視覚的なイメージから考えるタイプ=ビジュアル思考型」と「言語から考えるタイプ=言語思考型」に二分されるように思う。僕は典型的なビジュアル思考型人間で、漢字を使う日本人にはこちらのタイプが比較的多く見られるようだ。
ビジュアル思考型は言語思考型が言っていることをおおよそ理解できるが、逆に言語思考型はビジュアル思考型の言うことをほとんど理解できない。世の中には言語思考型のほうが多いので、ビジュアル思考型が自分が取り組もうとしているイシューを言語化していないと、チームの生産性は大きく下がる。
(第1章 イシュードリブン / 何はともあれ「言葉」にする より)
わたしはこれまで周囲の人に助けられることでなんとかなってしまったことがあまりにも多く、先輩が補足を入れてくれることで関係者に伝わりやすくなるだけでなく、関係者同士が認識している役割や協力の依頼先を理解できたということが何度もありました。言葉に不足があるうちは、実はそのあとの行動がイメージできていないということでもあります。
この本はこれまで読んだビジネス書や伝え方の本ではあまり触れられていない、認識回路のはたらかせ方の補足が各所に入ります。そこが、ほかのビジネス書と圧倒的にちがうところ。
日本人同士のコミュニケーションって、よくよく考えるとものすごく高度です。中国から入ってきた表意文字の漢字を見て意味を類推し、形象文字で自然を感じ、ひらがなで柔らかさを感じ、カタカナで外来種を感じ、同時に音でも度数や波を読んでいる。インプットを認識するまでの間にかなり複雑なことをしています。
だからこそ、それぞれがひとりの状態で読んでも理解できる文字列を起こすことが大切なのだと、認めたくないけど認めざるをえない。認めないからには全身を使ったアウトプットで自分は行くしかないと、そういう境界を示されたような気持ちにもなりました。
そしてこの本の主題となっている「イシュー」の話は、自分の思考と行動がまとまらないときのことを思い出すと、かなり痛いところをつかれている! ページをめくるたびに固まりかけたかさぶたを剥がされるのだけど、同時になぜ血は空気に触れると固まるのかという話をされるので、きびしいのにやさしい。
わたしはなにかがうまくいかない瞬間、"いじける" というマインドが発動すると迷妄に陥るといるも感じているのだけど、この "いじける" と "イシューのなさ" は、すごく相性がいい。結果が待てなくなったり余裕がなくなることがあっても、そこで「いじけ」と「イシューのなさ」の相性のよさをあらかじめ認識して断ち切ることができれば、先のことを考えることができる。この本はそれをおだやかな語り口で現実的に示してくれます。
最終章はアウトプットのしかたになっているけれど、ここから先は必要な人だけどうぞと書かれています。ここで抑制できるのはほんとうにすごいことであるなと思いながら読みました。大切なことはそれ以前に書いてあるというメッセージはタイトルに盛り込んでいるのだし、実用するのは読み手なのだから、という抑制。
この本はやる気のときよりもむしろ「いま、凪か?」というときにこそ読み返したい本。なにかの技を伝えるメニューを開発・構成するとき、慣れた仕事で思考の可動域が狭くなったときのために手元に置いておきたい。若者向けに書かれているようでありながら、年数を重ねて身体の経験記憶が蓄積している人ほど発見の多い本じゃないかと思います。