これ、これなのよ…。インドのみなさんのすごいところは…。という、たいへん伝えることが困難な風習や考え方のあれこれをとてもわかりやすく「授業の風景」で読ませてくださる。もはやこれは教材。教材として紹介したい。ヨーガやインド思想を学んでいるみなさんは、必ず読んでください! と、誇大広告と言われても勝手にすすめたい。そんな小説。
なんだこれすごいな。ものすごいおもしろさじゃないの。えっ? 直近の芥川賞作品なの?! 芥川賞って、なにが基準のやつだっけ…。と、思わず調べてしまいました。無名の作家や新人のかたに与えられる賞なんですね。なんだかすごいですよこの作品は。宗教的なのに、マンガみたいなおもしろさなんです。小説では似た感じのものが思い浮かばないのだけどコミック「聖☆おにいさん」のようでもあり、映画「スラムドッグ$ミリオネア」のようでもあり、授業の場面に限ってはまるで夏目漱石の「坊つちゃん」のようでもある。笑えるのに意識の根底にぐっさりくる。なにこれ…。
日本人がインド人に日本語を教えながら気づくさまざまなことを主軸に物語が進んでいきます。
この本は毎晩深夜まで働く激務OLの友人が「なんかこの前読んだ、別れた旦那にインドに売り飛ばされた女の人の話が書いてある小説、すっごくおもしろかったよー」と、かる〜くざ〜っくり薦めてくれました。彼女の読む本はどれも通勤時に読みやすいものばかりなので電車の中で読んでいたのですが、これはじっくり腰を据えて読まねばならぬぞと、紙の本で読んだ後、お風呂でも読むためにKindle版を購入。何度も同じところを読んでは、じーんとしみじみじております。
輪廻、現在、過去、未来、業(カルマ)、行為(これもカルマ)
自分の過去の行為と業、他人の過去の行為と業
連続性、関係、家族、子宮、縛り(バンダ)
これらのことを、ときにウディヤーナ・バンダを解放して爆笑しながら(でもムーラは締めておこう)、そしてジャーランダラ・バンダをキメキメで(嗚咽直前になりながら)読ませるって、どんな技術よ!
読み手を現在と過去に紐づける日本語の固有名詞の使いかたなんて絶妙に昭和だし、読み手を未来に連れていく幻想と神秘の使いかたも巧み。しかも、結婚の持参金システムや名誉殺人など、脈々と続くカーストの暗黒面も書き漏らしていない。
なにこれこんなことどうやったらできるの、どうしてこんな小説が書けるの? どんな技術よ!!! と思って著者のかたのインタビューを読んでみたら… ご本人は仏教を研究されていたことがあって、夫はサンスクリット語の研究者で、大阪の人とのこと。おもしろいわけだわね。なんだよー。お好み焼き定食かー。
わたしは願望の文型を教える場面を読みながら、これー、それー、そこなのよー。その、あの、目ヂカラ200%の彼らの持っている圧倒的なタット・サット感!!! 日本人が過去にばかりとらわれて現在と未来を殺しているのと対極にある、それ!!! と、毎回そこで泣きます。わたしはこの本を、毎回そこで泣くために買いました。
むずかしいインド思想の本を10冊読むより、この一冊の方がガツンと効きます。しつこいようですが、いま・現在・リアルタイムで読むべき物語です。未来に読もうとか思ってないで、いまですよ。いま。
(どこかの塾の先生みたいになってきたけど、あのかたのおっしゃってることも、たいそうインド的なのよね…)
▼紙の本
▼Kindle版