うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

恐怖 谷崎潤一郎 著


これはいまでいうパニック障害か、と思っていたら多くの人がそのようなことをネット上でも書いている。
小説の中で鉄道病と書かれるそれは、何人かの友人から聞いた経験ととてもよく似ている。それにしても、うまい…。文章が。うまいわ。そらそうか。文豪だもんな。「豪」ってこういうことか。


この小説を読みながら、こういう状況を抱えながら「豪」ではない市井の人々が身近な他者に症状を訴えるのはとてもむずかしいことだろうなと想像する。ただ行きたくないだけだろうと思われる、というリスクも大きかろうと思う。
この小説のすごいところは、ラストでかなり自身の恐怖の原因を探りあてていることで、それは徴兵や戦争そのものというよりも「認められないこと」にかかっているように見える。


わたしは男性には一定の比率で「同性の目上の者や権威に認められないことには永久に満たされない」という病のような性質をもっている人がいると思っているのだけど、「認める」ということのあらゆるバリエーションを、とくに性的な面で描いてきた人がここで「恐怖」をこのようにシンプルに分解しているということにすごさを感じる。この作家が恐怖を描くとこうなるのか…。
どこまでも人間の業を詳らかにする気でいるのね。


Kindle

恐怖
恐怖
posted with amazlet at 18.06.05
(2016-06-28)