これはインドで買って自分で訳しつつ読んだ紙の本です。スワミと博士の共著本。最も古いといわれるハタ・ヨーガ教典の出典をあちこちに求めてまとめた労作。
デーヴァナガーリー(あのごにょごにょした文字)と英訳と解説で、ローマナイズ(ごにょごにょの音をローマ字にしたもの)はありません。近年はKindleのおかげでインド人・西洋人を中心に読まれていた書物に触れやすくなり、この書物に近い「Goraksha Samhita」を先日紹介しましたが、同じゴーラクシャ・ナータの書物としては今日紹介するのこのゴーラクシャ・シャタカンのほうが有名かと思います。内容の違いというよりも、形として(モノが)残っていたのでしょう。
この教典(GORAKSHA SHATAKAM)はヨーガ・スートラとハタ・ヨーガ・プラディ・ピカーのまさに中間のような存在の教典ですが、このような特徴があります。
(以下わたしの拾った特徴です)
- 説かれているのは6肢のヨーガで、それはパタンジャリのヨーガ・スートラの8肢からヤマ、ニヤマをのぞいた6。
- アーサナは2つだけ言及。シッダーサナとカマラーサナ。カマラーサナは事実上パドマーサナ。
- ムドラーはマハームドラー、ナブホムドラー、ケーチャリー・ムドラーについて言及がある。
- 3つのバンダ(ジャーランダラ・ウッディヤーナ・ムーラ)について言及がある。
- チャクラは6つについて記述があり、7に対しぬけているのはアジナ・チャクラ。
- でも瞑想の位置は9個羅列されている。そのなかにはアジナ・チャクラの位置も含まれる。
- ラスト3節を読むと、タントリックな方向よりもシャンカラ的なヴェーダーンタ方面との親和性を感じる
(最後だけわたしの日本語訳で紹介します)
99節:ブラフマは純粋・不動・唯一無二の・究極の・遍く広がる、地を越えた至福の全存在
100節:ミルクがミルク、ギーがギー、火が火に溶けるようにヨギはパラマ・パダと溶解し、パラブラフマと同一化する
101節:秘密はゴーラクシャによってひらかれた。最高の秘密は解脱への階梯をのぼる者に知られ、輪廻の怖れを滅する
(この本自体は読めないとしても、要素はほぼ「Goraksha Samhita(English Edition) 」で読めるのと、わたしのほうで対応表を作り末尾に記載しておきますので、参考にどうぞ)
この本は、以下のコンテンツで構成されています。
- PUBLISHER'S NOTE
- PREFACE
- SCHEME OF TRANSLITERATION
- ABBREVATIONS
- INTRODUCTION
- SAMSKRTA SUMMARY OF CONTENTS
- TEXT OF GORAKSHA SHATAKAM
- ENGLISH TRANSLATION
- NOTES
<すこし要約&感想>
「PUBLISHER'S NOTE」では喪失されている節「81番」「95番」について、どのように埋めたかが述べられています。
「PREFACE」はいわゆる「まえがき」や「出版にあたって」というような内容。
「SCHEME OF TRANSLITERATION」は、デーヴァナガーリー文字とローマナイズの音表記の対応表。
「ABBREVATIONS」は、省略・短縮記述の対応表。あまり知られていない書物の名前もここで知ることができます。
「INTRODUCTION」は、出典とその出所(どの図書館から、など)が書かれています。ここを見るといま重要な書物はロンドンにもあることがわかります(植民地だったので)。同じインド内でも(そもそも国土が日本の8倍)、プーナ、コルカタ(カルカッタ)、バローダ(ヴァドーダラー)、ベナレス(バラナシ)出典書物があり、これはそうとう苦労しただろうな…というのがひしひしと伝わってきます。
ゴーラクシャ・ナータについてわかっていることについても、少しかかれています。学術的な本なので、諸説あるものは根拠と共に淡々と記述されています。ちょっとおもしろいのは、「ゴーラクシャナータはネパールで守護神、チベットでは仏教マジシャンのように考えられている」という記述。「Goraksha Samhita(English Edition) 」の訳者のかた(Swami Vishnuswaroop氏)の活動圏はネパールのようなので、ネパールにもルーツを探れる情報が残っているのかもしれません。こういう話は松尾芭蕉忍者説だったとか、東洲斎写楽のミステリーのようでおもしろいですが、ゴーラクシャ・ナータが最古で7世紀の人かもしれなかったとして、8世紀といわれるシャンカラについてはあれだけ人物像が伝えられていて、やはりハタ・ヨーガの教えはインド思想・哲学の主流とは少し違う流れで伝わってきたのだな… ということがうかがえます。
「SAMSKRTA SUMMARY OF CONTENTS」は、要約の一文。もともと本文のほとんどが2行で、がんばってアーリヤー調の長さみたいな感じで書かれている教典なのに、要約の一文がバーラ・プラボーディニーというところにあったようで、それが収録されています。複数の節をまとめて要約した文もあるので、グルーピングしたサマリー文という感じです。
「TEXT OF GORAKSHA SHATAKAM」と「ENGLISH TRANSLATION」は、本文と英語訳です。この本文の下に各節で採用しなかったバージョンが細かく記載されているのが、お得といったらヘンですがわたしのように他の書物と照らし合わせて読みたい人にはお得です。これを見ると、Swami Vishnuswaroop氏の「Goraksha Samhita(English Edition) 」の底本にはプーナ(地名)の「Bhandarkar Oriental Research Institute」のものが多く採用されていることがわかります。
「NOTES」は解説で、他のハタ・ヨーガ教典の共通性などから掘り下げた解説になっており、この教典の特徴であるシンボライゼーション(この感じは、たいへん日本語化しにくい)の照合が丁寧に行われています。
この本は読んでいたけど照合相手がなかたっところに、Swami Vishnuswaroop氏の「Goraksha Samhita(English Edition) 」の登場で照合ができたので、この場でも紹介してみました。以下、わたしのノートを共有します。ゴーラクシャ・サンヒターの1-4節には、ゴーラクシャ・シャタカンの第2節と同じことが書いてあるよ、という意味になります。
ゴーラクシャ・シャタカンにあって、ゴーラクシャ・サンヒターにない要素は、以下でした。(日本語で訳しておきます)
- 51節:吸う息も吐く息も同様にゆっくり行うべし。保息も充分以上に行うべし
- 83節:ランピカーはチャンドラ・マンダラにありネクターで満ち、流れ出る。鼻先を見つめここを瞑想すると死から解放される
- 91節:宝石は磨くと本来の色で輝く。魂は解放されてる。力によって付属するものから自由になる
(1節はよくある冒頭のあいさつ文のトーンが違うだけです)
ゴーラクシャ・サンヒター⇔ゴーラクシャ・シャタカン 要件対応表
サンヒター | シャタカン |
---|---|
1-1 | なし |
1-2 | なし |
1-3 | なし |
1-4 | 2 |
1-5 | 3 |
1-6 | 4 |
1-7 | 5 |
1-8 | 6 |
1-9 | 7 |
1-10 | 8 |
1-11 | 9 |
1-12 | なし |
1-13 | なし |
1-14 | なし |
1-15 | なし |
1-16 | 10 |
1-17 | 11 |
1-18 | 12 |
1-19 | 13 |
1-20 | なし |
1-21 | 14 |
1-22 | 15 |
1-23 | なし |
1-24 | 16 |
1-25 | 17 |
1-26 | 18 |
1-27 | 19 |
1-28 | 20 |
1-29 | 21 |
1-30 | 22 |
1-31 | 23 |
1-32 | 24 |
1-33 | なし |
1-34 | 25 |
1-35 | なし |
1-36 | なし |
1-37 | 27 |
1-38 | 26 |
1-39 | 28 |
1-40 | 29 |
1-41 | なし |
1-42 | なし |
1-43 | なし |
1-44 | なし |
1-45 | なし |
1-46 | 30 |
1-47 | なし |
1-48 | 31 |
1-49 | なし |
1-50 | なし |
1-51 | なし |
1-52 | 50 |
1-53 | なし |
1-54 | なし |
1-55 | なし |
1-56 | 32 |
1-57 | 33 |
1-58 | なし |
1-59 | なし |
1-60 | なし |
1-61 | なし |
1-62 | 34 |
1-63 | なし |
1-64 | なし |
1-65 | なし |
1-66 | なし |
1-67 | なし |
1-68 | なし |
1-69 | なし |
1-70 | なし |
1-71 | なし |
1-72 | なし |
1-73 | なし |
1-74 | なし |
1-75 | なし |
1-76 | なし |
1-77 | 35 |
1-78 | なし |
1-79 | 36 |
1-80 | 37 |
1-81 | なし |
1-82 | なし |
1-83 | なし |
1-84 | なし |
1-85 | なし |
1-86 | なし |
1-87 | なし |
1-88 | なし |
1-89 | 39 |
1-90 | なし |
1-91 | なし |
1-92 | 38 |
1-93 | 40 |
1-94 | なし |
1-95 | 43 |
1-96 | 44 |
1-97 | 45 |
1-98 | 46 |
1-99 | なし |
1-100 | なし |
2-1 | 42 |
2-2 | 47 |
2-3 | なし |
2-4 | なし |
2-5 | 48 |
2-6 | 49 |
2-7 | 41 |
2-8 | 52 |
2-9 | なし |
2-10 | 53 |
2-11 | 54 |
2-12 | なし |
2-13 | なし |
2-14 | なし |
2-15 | なし |
2-16 | なし |
2-17 | なし |
2-18 | なし |
2-19 | なし |
2-20 | なし |
2-21 | なし |
2-22 | 55 |
2-23 | なし |
2-24 | なし |
2-25 | なし |
2-26 | なし |
2-27 | なし |
2-28 | なし |
2-29 | なし |
2-30 | なし |
2-31 | 56 |
2-32 | 57 |
2-33 | 58 |
2-34 | 59 |
2-35 | 60 |
2-36 | 61 |
2-37 | なし |
2-38 | なし |
2-39 | なし |
2-40 | 63 |
2-41 | 62 |
2-42 | なし |
2-43 | なし |
2-44 | なし |
2-45 | なし |
2-46 | 64 |
2-47 | なし |
2-48 | なし |
2-49 | 65 |
2-50 | 66 |
2-51 | なし |
2-52 | 67 |
2-53 | 68 |
2-54 | 69 |
2-55 | 70 |
2-56 | 71 |
2-57 | 72 |
2-58 | 73 |
2-59 | 74 |
2-60 | 75 |
2-61 | 76 |
2-62 | 77 |
2-63 | なし |
2-64 | 78 |
2-65 | 79 |
2-66 | 80 |
2-67 | なし |
2-68 | 81 |
2-69 | 82 |
2-70 | 84 |
2-71 | なし |
2-72 | 85 |
2-73 | なし |
2-74 | 87 |
2-75 | 86 |
2-76 | 88 |
2-77 | なし |
2-78 | なし |
2-79 | なし |
2-80 | なし |
2-81 | 89 |
2-82 | 90 |
2-83 | 93 |
2-84 | 95 |
2-85 | なし |
2-86 | なし |
2-87 | 94 |
2-88 | 96 |
2-89 | 98 |
2-90 | 97 |
2-91 | なし |
2-92 | 少し92似てる |
2-93 | 99 |
2-94 | なし |
2-95 | 少し92似てる |
2-96 | なし |
2-97 | 100 |
2-98 | 101 |
2-99 | なし |
2-100 | なし |
2-101 | なし |