1963年のインド映画(ベンガル語)です。軽い気持ちで観に行ったのですが、とんでもない映画でした。
世代の変化、男女関係の変化、旧支配国・隷属国の関係の変化を完璧な球体に丸めたような作品。
インドの男社会は苦しい。儒教に似た世代のタテ社会に、同胞のヨコ社会でガッチリしばられる。そんななかで地道に頑張っている男性の妻が、夫を助けるために仕事を始める。100%専業主婦で人生を終えるはずの女性が社会に出るということが、どういうことか。
国に関係なく多くの人に共通するところまで煎じ詰めて見せていく濃厚なお話。舞台がコルカタなので、英国に対する思いも強くストーリーに織り込まれています。盛りだくさんなのに130分で終わる、あっという間の展開。
俳優の演技・脚本・伏線のはりかたすべてに無駄がなく、なのに少しもギスギスしていない。女性が自分の手で金銭を得ることによってもたらされる男性への影響の描き方が、かなり緻密です。物語は三世代で暮らしている設定なのですが、生活が厳しい中で嫁が働きに出ることに猛反対する老父が、当てつけのような行動を起こします。この老父の心理が、これまでに見てきた年配者たちの発言と重なり、「フェミニズムなんて、しょせんは男性同士の戦争のおまけ」に見えてくる。
日本は格差をオブラートに包んだなかで「さらに下の者を探して叩きたがる」ということの顕在化が止まらないけど、「その要素、これでしょ?」とあっさり整理して、しかも美しく非の打ち所のない映画で観せられたら、もうたいていのことは黙ってスルーできる。この映画だけ、あればいい。「フェミニズムなんて、しょせんは男性同士の戦争のおまけ」なんだけど、「だから、次いきましょう、次」って気分にさせる。そう来るか! という感動的な流れ。
インド映画はこういう細密さの歴史があって、「めぐり逢わせのお弁当」みたいな作品につながっているんだろうな。哲学の先進国は、差別感情の描き方が微細。やることがすごいです。
男女年齢関係なく、自分の手足を動かしてはたらくことに関心のあるすべての人に、猛烈におすすめしたい映画です。
この映画は、東京と横浜で今週金曜まで、日本語字幕付で見ることができます。
そのあと、新潟と神戸へ行くようです。(新潟・神戸へ行ける人は、なんとしてでも観にいってほしいです)
★同時上映だった「チャルラータ」の感想はこちら(ネタバレしないように書いてます)