うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

豊かさの精神病理 大平健 著

通りすがりの古本屋で購入してストックしていたものです。1990年の本。
たまたま今月のはじめごろ、出張中にホテルのテレビをつけていたら「バブルへGO!! タイムマシンはドラム式」という映画をテレビでやっていて、ぴろ子さんがあまり出てこないので半分くらいで寝てしまったのですが、この映画の設定とちょうど同じ年でした。
この映画を観ずにこの本を読んでいたら、「うっわー、バブルっぽい」と思ったところですが、映画での免疫のおかげでスッと入っていけました。


当時うちこは超スポ根高校生だったので、まったく贅沢な気配を記憶していないのですが、都会の人たちはこんな時代だったのかぁ、と思いました。
でも精神に起こる問題の性質、起こり方のしくみは変わっていなくて、読みながら「これは今で言うとネットやケータイのコミュニケーションに置き換えられるかも」と思うことがチラホラありました。


この本は、精神科医のお医者さんが当時患者さんの性質に変化を感じ始めた頃、ニーズに合わせて従来の「精神科」とは少し違った「よろず相談所」業務を始めました。という記録形式の内容。シリアスにではなく、カジュアルに気持ちの問題の相談に来る人が増えたのだそうです。その患者さんとのやりとりと分析の記録です。

<8ページ 「モノ語り」の人びと より>
 <よろず相談所の患者>の相談にのるコツは、悩みの背後にある人とのつき合いを巡る課題ないし葛藤を見出すことにあります。しかし、中にはそれが困難な例があります。いくら手をかえ品をかえ尋ねても、人とのつき合いがどのようなものなのかさっぱり見えてこないのです。そういう例に数多く出会ううちに、そういう人たちにはひとつの特徴があることがわかりました。自分についてであれ人についてであれ、人そのものを描写し説明するのが苦手なのです。

「モノ語り」というのは、人のことを説明することはできないのに「あの人はヴィトンの○○を持っている」などのモノになると語れたりするのだそうです。

<17ページ バッグのイメルダ より>
 この辺りまで話が進んでくると、僕のほうでも彼女の人柄の大よその輪郭がつかめてきます。
それと同時に、こういう人とそりが合わないのはどんなタイプの女性かなと想像しはじめます。何だか弘法大師のようですが、この種のことを二つ同時に考えるのは精神科医にとって難しいことではありません。人柄というものを人との繋がりの中で考える習慣になっているからです。人柄と人とのつき合い方とは、硬貨の両面なのです。

なんだかちょっとインドっぽいことをおっしゃる。

<37ページ 制服がブランド より>
言葉つかいが急に慣々しくなって、「ね、可愛くないでしょ」と言うのは、<患者>が医者の反応を調べているのだと判断しました。ていねいな言い方は今しばらく続けることにします。

先日書いた「つぶやく人々」も妙になれなれしい。これは時代に関係ないみたい。

<106ページ 女の子とのつき合いも人事部流に より>
 私生活まで人事部流とでも呼びうるような考え方を通しているのは、仕事に対する過剰適応の結果としか言いようがありません。<患者>は自分の生活が合理的で無理がないと言わんばかりですが、こういう考え方には必ず無理があります。どこかで帳尻合わせをしないわけにはいかないはずです。この「帳尻合わせ」が行われているかを見つけることが、多分、<患者>の不眠の原因を探ることになるだろうと、僕は予想しました。

人事部に勤める男性患者。この人は結局、好きになったホステスに告白したのだけどもあしらわれたのが原因だった。金のない奴には用はない、という「人事的な人間の取り扱い」では太刀打ちできない価値観に、自分の身の程をしらされた。でも人事の仕事って、大変だよなぁ、と思う。特に今のように「うつ」という休暇行使カードが横行する時代、「過剰適応」しないとしんどいと思う。
うちこは、人事の仕事をしている人のメンタルが気になります。

<146ページ ペットは要注意 より>
 ペットのことは精神科医にとって、「笑う」ようなことではありません。僕自身の経験でも、治る一歩手前だった不安神経症の患者がペットの犬の死をきっかけにすっかり病状が悪化したことがあります。ペットの猫の死をきっかけに、うつ病になった患者も何人か診ました。逆に、長らく家に置いていたペットの犬の遺骨を埋葬するように勧めたら、すっと病状が軽くなった分裂症の患者もいます。精神科医にとって、ペットは<要注意>なのです。

身近に思い当たる人がいるので、そうだよなぁと思う。

<147ページ ペットは要注意 より>
 <患者>がひとつ話す度に、僕の方で話題を拡げてゆくのは、<患者>の緊張を和らげるためです。単刀直入に話の核心に入るやり方もありますが、それは、心理的圧迫感を患者に与えます。言外に医者が解決を急いでいるという印象を与えるのです。それが面接上必要な場合もありますが、この<患者>のように初めから緊張している人には向きません。話題を拡げてゆくことで、言外に医者が解決を急いでいないことを伝えるのです。

うちこはいつも、やってしまう。単刀直入に話の核心に入りがち。解決を急いで何が悪いの? と思っちゃってる。

<157ページ 人間もペット ヒトはコントロールするのが難しい より>
 ペットは両義的な存在です。「家族の一員」ともなれば、「動くぬいぐるみ」ともなります。
深い愛情の対象ともなれば売買の対象ともなります。ヒトのようであって(生き)モノであり(生き)モノであってヒトのようなのです。
 ペットはこのように飼い主にとってヒトとモノの両方の意味を持つため、つまり両義的な性質を持つために、飼い主のヒトやモノに対する態度を映し出す鏡となります。それ故に、ペットの話題は精神科医にとっては重要な話題となります。たかが犬や猫の話、と軽視することができないのです。今、「鏡」と言いましたが、この「鏡」は平面鏡ではありません。
飼い主の考え・態度をねじまげ、あるいは拡大して映し出すいびつな鏡なのです。その像から元の姿を再現するのが精神科医の仕事となります。

車もかも。と思う人がいる。

<168ページ 結婚を間近に控えて より>
 「解決」とは言っても、<患者>の抱く不安は一見もっともで、それをすべて消し去ることはできません。僕にできることは、彼女の不安の種に別の角度から光を当てることです。別の角度から見れば<患者>の不安の種も大したことではなくなるかも知れません。僕は、彼女の不安の種が、彼女なりの「幸せ」のあり方と関係がある、と考えました。もちろん「幸せ」といった漠然とした概念は取り扱い困難ですから、<患者>が「幸せ」を実感できそうな領域をひとつづつ話題にして行きます。
 <患者>のし「幸せ」に僕の関心があることを示すために、僕の方では、ことさら、「幸せ」という言葉を繰り返し使うことにします。

出世しそうにないけど、素直な明るい人との結婚でモヤモヤしてしまう女性の話。そんな人は、いっぱいいますね。暇つぶし相手として、心の隙間から目をそらすガイド役お願いする人として、という割りきりができないんですね。

<189ページ 夫と離婚したい より>
二つしかない選択肢のどちらを選んでも当人にとって望ましくない、というのが<ディレンマの構造>です。これに陥ると普通、人は不安にさいなまれます。

ここを読んで思ったのですが、うちこは日々、あまりこの「ディレンマ」というやつがない。それよりもこの発音が気になる。

<220ページ 個性を表示するモノ より>
 自分をその心身両面にわたってモノ化する<モノ語り>の人びとは、自分自身をプラグマティックにコントロールする可能性を持っているので、"自信" に満ち、ネアカです。人びとが "自信"を失うのは、その可能性を生かせない時です。人びとは「自分への投資」つまり、"自己実現" や "健康維持" に欠かせないモノの購入をおしみません。あとは実行する "意志" はまだモノ化されていません。それ故、自分の "意志" に "自信" をもつことのできる人は少ないのです。

「実行する "意志" はまだモノ化されていません」。「まだ」ってのが気になりますが、それは複線というわけではなく、その後も「解なし」でした。

<223ページ ポリシーの立て方 より>
 「頭の中のカタログ」は、自分の(モノによって構成されている)"生活" の見取り図のようなものです。「頭の中のカタログ」のおかげで、人びとは持ちモノの集合である自分の "生活" の全体像を把握することができます。"生活" という漠然としたものを明晰に理解し、意のままにコントロールすることができます。


(中略)


 人びとは「頭の中のカタログ」を点検し、"ポリシー" に合わないモノを見つけると、それを捨ててしまいたくなり、あるいは、ヒトにあげてしまいたくなります。逆に、人びとは「頭の中のカタログ」に空白の項目を見つけることもあります。"ポリシー" 上、必要不可欠のモノが無いことに気づくのです。それが「絶対欲しいモノ」となります。人びとはカタログ雑誌に自分の「絶対欲しいモノ」が掲載されていないかどうか調べます。載っていれば「何としても手に入れよう」とするのです。少なくとも "ポリシー" のある人は、カタログ雑誌の勧める「絶対欲しいモノ」の特集を鵜呑みにはしません。 "主体性" があるのです。カタログ雑誌は参考にするだけです。
 しかし、カタログ雑誌は、"ポリシー" の立て方を教えてくれる側面をも持っています。

最後の一行の「"ポリシー" の立て方を教えてくれる」ってのがちょっと面白い。法則の見つけ方にヒントをくれるのではなく。
今でいうと「できる人はこんなふうに作業を効率化している」というハック・カタログにあたるかも。


いつの時代も人は、「エゴ」「執着」と相撲をとっている。
「ケータイ持たないんですよ」というポリシーの人を見つけるのは、すごく難しい。情報の持ち方や扱い方には個性が出るかもしれない。
情報のスマートな扱い方や、効率のいい習慣技術をコレクションしていても、スマートに稼いではいなかったり。ビジネスのフローを創り出すことはできなかったり。組織の一員として滑らかに機能できなかったり。


今の時代の「精神病理」も、おもしろいね。

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