リッツ・カールトンの理念に魅せられて世界中のリッツ・カールトンを旅した女性の滞在記に、東京総支配人のアフターコメントが入る、というちょっと変わった形式の本。
なぜわたしがリッツ・カールトンの理念のようなものに興味がわいたか、読みながらじわじわ見えてきた。「感じのいい奴隷になるのは簡単。人間には帰属意識があるから。でも根っこが怠惰になれば、ホテルマンは奴隷化する」ということを踏まえたうえで、心根に光のある人だけで運営しようとしている。
東京総支配人の語る、ホスピタリティの第一歩の手前にある意識にも、なるほどなぁと思う。
大人になった私たちは、誰かに寄り添われるという心地よさを忘れてしまいました。
(46ページ エスコート より)
たしかに。心地よくない寄り添いも多いので混乱してる。もうなにが寄り添いなのかわからない。
東京総支配人の語る以下は、ほんとうの理由はそれだじゃないだろうと思いつつ、うまい説明だと思った。
いまや多くのホテルがマイレージシステムの導入を行っています。
しかしながら、リッツ・カールトンではそのようなサービスを提供していません。それはニーズの先読みによって、お客様の願望を満たし、最良のおもてなしを提供することが実践されていると自負しているからです。
(91ページ ミスティーク より)
マイルとかポイントとかって、やる気のある人ほど「そんな選択の理由で来られてもなぁ」という残念さを感じるだろうな。
最後のほうにある「プライバシー」のところは、ただうなずくばかり。
お忘れ物に関しては、基本的にお客様からのご連絡をお待ちします。
我われは、さまざまな諸事情を想定して、どんな状況においても守秘義務を貫く必要があるからです。
(220ページ プライバシー より)
くつろぎは、「プライバシーが守られている」と感じられるところでないと、生まれない。
はじめはちょっと辟易するような攻めの感動サービス・エピソードが続くけれど、守備のプライバシー配慮などの話がすごくためになる。
なにかの運用ルールなどを決める立場にある人は、ポリシーの文章の裏を想像して読むと、「宣言の落としどころ」のアイデアが得られたりします。この本そのものが、しっかりプロモーションの一環になっている。そういう本でした。
オータパブリケイションズ