うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

河童が覗いたインド 妹尾河童 著

旅行中に読んでいました。やっぱり旅先にマッチする本を読まなくちゃね、ってことで、厳選してこの1冊。リュックの中身の容積と相談しながら、この1冊に決めました。平成三年の本なので20年近く前の本なのだけど、今でもインド旅行記の大ベストセラー。この本が書かれた当時は1ルピー25円。パイサもある。そして、この旅行記にはリシケシもハリドワールもないのだけれど、そこに登場するエピソードの「マインド」はやっぱり同じ。さらに、今はものすごい勢いでITが普及してる。
まだまだ続く旅の記録で引用することがありそうなので、今日はこの本を紹介します。

<15ページ 「カルカッタ」より>
 民族的にも風土的にも実に多様で、各州や地域によって風俗習慣も違う。とても"インドは"などという表現で、もっともらしくまとめられるものではない。むしろそのまとめようのない"混沌"こそ"インド"そのもののような気がする。

おそろしく原始的なことも、おそろしく進んでいることも共存してる。「牛糞とIT」の現状がそれを象徴しているように思いました。

<45ページ 「ガジュラホ」より>
 豊かな暮しをしている階級は、政府の呼びかけ通り子供は2〜3人。そして養育のために金をかけている。一方、貧しい人達の間では「子供を育てることに金はかからない。むしろ多いほうが家族が助かる」という。
 乳児期には乳をふくませて育てるが、5歳にもなれば子供は子供なりに、自立した生活力を身につけていく。ここでは弱い子供は生き残れない。

リシケシはデリーよりも「学校へ行かずに働く子供達」により出会いやすい。そのたくましさを見ていると、「人のせい」「環境のせい」にして事を成さないようじゃ生き残れないんだというシンプルなことに気づかされる。

<101ページ 「ボンベイ」より>
 彼(パースィー/ゾロアスター教徒の人)の説明によると、"火"は最重要な意味を持つが、"火"だけではなく"空気" "大地" "水"も汚してはいけないそうだ。だから"火葬" "土葬" "水葬"をしない。大地を汚さないために、地面より高く作られた石の床の上に、死者を横たえる。鳥に死体を与えるのは、人生で最後の功徳である。"鳥葬"は奇異と誤解されがちだが、あらゆる環境汚染を防ぐもっとも"衛生的で合理的な葬法"だということだ。

うちこは小学生の頃、「ゾロアスター教の鳥葬」についてなにかの本で知って、「なんて合理的な!」と感動したのを覚えています。普通に、なにかの動物の血や肉になれたら、うちこもベストだと思う。子供の頃から考え方がそのままみたい。でも、なんだか「ゾロアスター」という言葉の響きに、怪盗ルパンとか昔のタモさんの眼帯みたいなのをつけた、江戸川乱歩の本の挿絵に出てきそうな黒い服を着た人たちを勝手に想像していました。語感のもたらすイメージって、なんかありますよね。

<180ページ 「最南端」より>
 車から降りて、写真を写そうとしたら、目ざとくぼくを見つけた一人が叫んだので、他の人たちも一斉にこちらを向いた。「写真を写すな!」というのかと思ったら、その反対であった。裸に近い男たちも、腰の布を整えたり、慌ててのおめかしに大騒ぎになった。みんなニコニコと、直立して横一列に並ぶ。撮影されることが珍しいようだ。
日本でだってテレビカメラの取材に、わざわざ顔を写したがってもらいたがる人が、沢山いるのだから、インドの人がカメラに向かって並んでも、なんの不思議もないわけだ。
でもここの人達の喜びようは、こっちの胸がキューンと痛くなってくるほどで、実に人がイイのである。

これが、7年前のオールドデリーではそんな光景もあったのだけど、今回の旅行では一眼レフ持ったインド人や携帯電話で写真撮るインド人もいるもんだから、すごく変わったなぁと。もちろん、まだ携帯電話の普及が追いついていないところでは、たくさんこのような場所もあるのだと思うけど。少なくとも、7年前のオールドデリーではそんな光景がまだあった。

<184ページ 「最南端」より>
(農業について)
「機械に頼らなくても、人間でやれる」
と、いわれればそれまでだが、もう少し能率的な方法を取り入れてもいいのではないか? とオセッカイなことを、また考えてしまった。しかし、ドライバー氏は、「機械化されて仕事が早くできるようになると、仕事が無くなる人が沢山でてくる。みんな働いて暮らしている今の方がいいのではないだろうか? 機械化しても、稲が成長するスピードはかわらないのだから」
 と、いう。インドの人は、哲学的な理屈っぽいことをよくいう。論争にしても、インドの風土が背景では、とてもかないっこない。確かに、彼らの発想の中に、真理があると思えることが多い。米を作ること一つをとっても、自給自足という立場に立ち、実行している。

リーマン・ショック後の日本の今、なんだかこの言葉が胸に刺さる。「みんな働いて暮らしている今の方がいいのではないだろうか? 機械化しても、稲が成長するスピードはかわらないのだから」という言葉がすごく印象的。
買い手が減っても、便利さを捨てられない人の性(さが)は変わらないんじゃないかな。人の心も自然物。稲と同じだよね。

<217ページ バンガロール より>
 ジャイナ教は、仏教とほぼ同じ頃の紀元前6〜5世紀に生まれた宗教だが、仏教と違って、インドの外へは出ていっていないので、日本人には馴染が薄い宗教である。
 一番大きい特徴は、徹底した不殺生にある。どんなに小さい命でも、殺してはいけないという教義から、ジャイナ教徒は農業に従事していない。土の中にいる虫を殺す恐れがあるからだ。
 従って、信者の大半は商業を営み、経済的に豊かな人が多く、インド民族資本の過半数は彼らが握っているとか……。宝石商の約半分がジャイナ教徒だといわれている。人口比が2百人に1人ということを考えると非常に目立つ。

うちこは沖先生の本などで、ジャイナ教については多少知識があるほうかと思います。今回の旅で、ジャイナ教徒で宝石商の青年と食事、お茶をする機会があったのだけど、「ユーはブッディスト? 僕、ジーナなんだ!」って挨拶してきて仲良くなって、うちこのデジカメに入っていた高野山の根本大塔の写真を見て「ストゥーパだ!」、福島県只見の川の写真を見て「ガンガーだ!」と反応してたのがおかしかった。帰り道、「ジャイナ教徒のメアド、意外とそのへんでゲット……」とすごく変な感じでした。


オール手書きの、濃密かつ愛にあふれたこの旅行記を超えるベストセラーは、なかなか出ないでしょうね。旅気分を盛り上げてくれる最高の一冊でした。

河童が覗いたインド (新潮文庫)
妹尾 河童
新潮社
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