うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

山椒大夫 森鴎外 著

えげつない話で驚きながら読みました。そしてラスト数行でぐわっと胸を掴む展開は、なにも反則技を使っていないのにずるいと思うほどうまくて、ひどい話なのにこの物語を好きにさせられてしまう。


元ネタの説教節『さんせう太夫』はもっと恨みの応酬らしく、森鴎外バージョンの方がマイルドだというのだから、元々がとんでもない話。
そして「山椒」は全然関係ないじゃないか! と思うタイトルなのだけど、例えるならこの物語はクラッシュギャルズが主役なのにタイトルにダンプ松本と付いているようなもの。「ダンプ」は全然関係ないじゃないか! となる。

 

それにしても、この読みやすさはなんだろう。
こんな書き方する俺カッコいいだろみたいなそぶりが全くなく、シンプルなのに印象に残る。この負担のなさは神ワザに見える。たぶんリズムのせいだと思うのだけど、セリフはあっても対話のボリュームになるほど長いラリーを書かないとか、文章のプロが解析したらコツがいろいろ見えたりするのだろうか。

 

序盤の景色は想像しやすい場所が舞台でした。糸魚川の親不知子不知や佐渡は地名を聞くだけですぐに怖い脳内映像を再生できます。その勢いに乗って他の土地も頭の中で映像化され、まるで映画を見るように読み進めるのだけど、やっぱりどうにも起こっていることがいちいちとんでもない。
この物語は母娘役が田中絹代×香川京子、女中役・浪花千栄子で映画化されているらしく、イメージ通りの配役なのだけど、観たいような観たくないようなおそろしい話でした。