うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

東京物語(映画)

有名な映画を観ました。「晩春」「麦秋」「東京物語」は紀子三部作といわれているそうです。
この映画では過去のシリーズでじわじわと頭角をあらわしていた女優・杉村春子がサッカーでいうリベロっていうのかな、ああいう感じの働きをされていて、登場人物がかなり多い話なのに複雑な立場の家庭内波状攻撃がしっかり繰り返されてみごとに回る。
2時間ちょっとの映画によくこれだけ骨太な要件を盛り込んだな…というほどです。

 

そんな具合で本題が重くて太いため、コントはほとんどありません。わたしはドリフに出てくるキャンディーズを見るのが好きなのと同じ理由で小津映画の中のノリちゃんコントが好きなのですが、今回はノリちゃんが戦争未亡人という設定。そんなにふざけてもいられなかったのでしょう。

はとバス」の都内観光シーンのちょっとした軽さくらいで終わってしまいました。

 


まあそれにしても、すごい映画ですね。家族の断絶を描いているとDVDのパッケージにありましたが、もう少し時代を経た今の感覚で見ると、描かれているのはまさに

 


 家父長制の終わりの始まり

 


当時の人々のマインドセットがよくわかります。
「~のほうがいい(ええ)」とか「幸せなほう」とか、老人たちが漠然と世間のなかで自分たち家族のポジションを査定する会話だらけ。とにかくいつもなにかを比較している老人たちと、自分の仕事と生活を回すのに手一杯な子供たち。
老年男性が三人で久しぶりに再会してお酒を飲む夜のエピソードはかなりえげつなく、戦争で子供を全て失った人の前でほかの二人が自分の子供の出世や親孝行ぶりを比較しては牽制しあい、酔いつぶれ、交番のお世話になります。(子供のいない人だけがちゃんと家に帰っている)

エピソードひとつひとつが妙に "ありそう" なことばかり。

 

戦後の話のせいか、子供世代の女性たちの生き方には総じて勢いがあります。
長女・志げと次女・京子(香川京子)との年齢差は推定15歳くらいあって、中間の世代をしっかり見てきたのがノリちゃん。ノリちゃんの夫である次男は戦争で8年前に亡くなっています。


ノリちゃんはOLをしながら、かつて夫と住んでいたアパートにそのまま住んでいます。志げは手に職を持って美容師の仕事をじゃんじゃん仕切っていて、母親世代のような生き方はしないぞ、という意思さえ感じさせる。京子はまだ少女の延長のような風貌で地元で教員をしています。
こんなふうに職業婦人の三つの形があり、まだ嫁にいけとプッシュされていない京子が22歳くらいだとすると母親は40歳で末っ子を産んだことになり、5人育ててひとりを戦争で失った家族であることがわかります。(生きている長男と三男はどうも影が薄い…)


母、志げ(長女)、文子(長男の嫁)、紀子(次男の嫁)、京子(次女)の各時代の女性の立場、周囲の人々との関係性も細かく設定され服装にもそれがしっかり表われており、なかでも特に文子(三宅邦子)のファッションが100%サザエさんなのも印象的。
サザエさんの新聞連載は昭和21年に始まったそうなので、戦後の東京って本当にこういう感じだったのでしょうか。
子どもたちがカツオとタラちゃんの実写版のようであるのも笑えます。長男役を「麦秋」と同じ少年が演じていて、「つまんねーやい!」などのように、語尾を「だい!」「やい!」と言ったり、「ちえっ」て本当に口に出して言うのが異様に懐かしい。

 


さて。そんな東京物語が、わたしにはどう見えたか。

一度見た限りでは、おじいちゃんおばあちゃんがかわいそうな、悲しい映画でした。
でもひっかかったところを確認しながらもう一度観たら、少し違って見えました。
この映画は前半だけ見ると杉村春子演じる長女のごうつくばりな感じが気になるのですが、その理由も説明されています。お父さんは京子が生まれるまでは酒がないと不機嫌になったり家族に迷惑をかけることがあって、そこまででなくても次男(ノリちゃんの夫)も酒飲みであったエピソードが語られ、血の繋がりが仄めかされている。

この父親に従い続けることの代償を考えなくて済んできた京子の視点は純粋といえば純粋です。しかも京子の仕事は教師で、外を歩けば子供たちがサッと立ち上がって彼女にお辞儀をします。そういう上下関係がしっかりとある仕事をして、敬われる立場に上っていく段階にいる。

この世代 × 地域 × 職業世界に紐づく意識のギャップがクライマックスで効いてくるんですよね…。よくこんな設定のバランスを見つけたなと思うほどです。

 


ノリちゃんは周囲の人のそれぞれの立場を鑑みつついろんなことを考えていて、できるだけ「善人」でいようとするのですが、ところどころで微妙な表情をしています。

そのあとで最後の最後に自分は演じているのだと吐露するシーンは、彼女の状況からくるセリフとしてだけじゃなく、自分の弱さと欲の取り回しかたの矛盾に自ら切り込んでいくセリフとして泣かされます。
もうこの場面のためにいろいろ設定してきたな! とわかったところで、この映画がやっぱりノリちゃんシリーズであることに気づかされる。

 


それにしても、ノリちゃんは相変わらず最高です。

このふたつのセリフが忘れられません。

「あたし年取らないことにきめてますから」(義母へのレスポンス)

「そう、いやなことばっかり」(京子へのレスポンス)

これはもう喋り方までサウンド感覚で身体内にメモしました。

カモーン リピート アフター ノリコ

 

 

「あたし年取らないことにきめてますから」

 

「あたし年取らないことにきめてますから」

 

「あたし年取らないことにきめてますから」

 

 

言いましたか? ちゃんと口に出しましたか?

ちゃんと早口でハッキリ言いました?

リピートした? 

ほ~んとかな~?(←これは「麦秋」の序盤・朝ごはんシーンのノリちゃん)

 

 

もう最近はノリちゃんのことを思うだけでニヤつき、元気が出ます。頭の中がノリちゃんのセリフだらけになっています。

わたしはなんでもわりと憑依されやすい(わたしが真似しているのではなくノリちゃんが入ってくる)ので、いよいよ日常でうっかり出てきやしないかと心配です。
オンライン会議中に唐突に名画女優口調が出ないように気をつけなくちゃ…。

 

東京物語

東京物語

  • メディア: Prime Video