うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

晩春(ばんしゅん・映画)

これは父親役の笠智衆による結婚説法を聴けるだけで、もうそれだけでありがたい映画。「なるんだよ、幸せに」の倒置が沁みる。
娘役の原節子はさながら三蔵法師。ありがたいお経を求めて天竺ならぬ "他人の家" へ旅立つ僧侶の複雑な心の旅支度。── なのだけど、妖怪役もこれまた同じく原節子。二面性を見せる娘・紀子(ノリちゃん)の表情の差がえぐい。菩薩になったり般若になったりする。自分を嫁に出そうとする人を睨みつけるときの目ヂカラは恐ろしすぎて、見ているわたしが危うく石になるところでした。

 

一度目の鑑賞では、ノリちゃんが「太ったねぇ」と言われても嬉しそうだったり、叔父さんや身近な男性から「疲れたでしょう」「疲れませんか」と声をかけられている意味がわからなかったけど(美人だからだと思っていた)、二度目に字幕付きで見たら彼女が戦争中に過酷な労働で "血沈" に関わる病気をして治ってきたところであることがわかり、さらに泣ける…。この映画は昭和24年の作品です。

 

戦後の暮らしの豊かさが度々小道具として登場するタオルに象徴されていたり、恋愛結婚で出戻りになってステノグラファー(速記者)という専門職を得て自立していく友人アヤちゃん(月丘夢路)との対比、英文雑誌とケーキと銀座など、モチーフや場所で新しくなっていく日本の暮らしを見せる。とにかく情報の盛り込みかたが、何度も観たくなるおもしろさ。

 

結婚なんて、他人事♪ とばかりにパンツルックで自転車を乗り回すノリちゃんのキラキラした笑顔が時間を追うごとに少しずつ曇っていくのもまた、思い出すだけでせつない。

せっかく戦争が終わっても嫁に嫁にとプレッシャーを受ける世代の女性はメンタルが安定しない。(そらそうだ!)

そんな娘となんとか折り合っていく父親の姿もまた、二度見るとものすごく泣ける。(わかってて見守ってる!)

 

この映画はジーンと泣ける話なのに劇中コントがすごく、なかでも叔母さん(杉村春子)がリード役をつとめるものが最高です。ノリちゃんが結婚したがらないのは相手の名前のせいでは…の展開では爆笑間違いなし。

人生を深刻にしすぎない会話を教えてくれるものって、いいですよね。

 


この映画は「麦秋」よりも前の映画なのですが、同じ北鎌倉住まいで家も間取りも全く同じで設定が違います。主要な俳優さんもほとんど同じ。しかもどっちも主人公がノリちゃん。
わたしの母親が生まれた頃の映画なのに、すでに笠智衆という俳優さんがおじいさん風で頭が混乱しました。この俳優さんは実年齢が若いときから娘を嫁に出す役をやってらしたのね…。
この時代に理想のお父さんランキングがあったら、確実にダントツで一位でしょう。娘の友人と仲良く話し、お茶も出してくれる。こんなフランクなお父さんは、当時かなり進んだ描かれかただったんだろうな。

 

いくらでも深読みしたり複雑な見かたもできる映画だけど、わたしは京都旅行の客室にある壷が「置かれた場所で役割を果たしなさい」という意味に見え、それ以外のところは単純に泣き笑いしながら楽しみました。

次もまたノリちゃんシリーズで、ものすごく有名なやつを観ようと思っています。

 

寝ても覚めてもいつだってノリちゃんはバッチリメイク!