うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

600万人の女性に支持されるクックパッドというビジネス 上阪徹 著


設計の細やかさで伸びたクックパッド。この本でその思想の片鱗に触れて、うなりました。
なかでも「説明が必要なサービスは、レベルが低い」の部分には、身の引き締まる気分になる言葉がたくさんありました。
「コメント欄」についての考え方は、このブログを長く読んでくれている人にわかりやすいと思うのではじめに紹介します。


この本では、クックパッドの「つくれぽ」(自作レシピ)のコメント欄の文字数を30文字にした理由が語られているのですが、リストにして書くと

  • 人気レシピになるとコメントの数が膨大になる
  • コメントを全部読み、返事も書かなければいけないとなると、作者とってはかなりの負担
  • コメントを書く側は、自分のことを覚えてくれているものと思っている
  • コメントを書くスペースがあるのに返事を書いていない、という状況は作者につらい
  • そうなると作者には、料理を楽しむことに心を割くスペースが減る

ということでコメント欄自体を短くし、かつ同じ人が過去に何をコメントしてくれたのかがわかる返信専用ツールも作っているそうです。
わたしの場合はこのブログのコメント機能の使用をコメント数が多くなる前にやめましたが、こういうプラットフォームだったらもうすこし続いたかな。とにかく、相手を覚えていられなくなる。これは、書き手にとってすごく残念なことです。



ランキングについての考え方も、すばらしい。

そもそも料理というのはとても主観的なもののはずなんです。一番人気のあるものがおいしい、というわけでは決してない。もっと多様であるべき。そこに、クックパッドが人気ランキングという形で、ある種の答えを出してしまうのは、やっぱり変だと思うんです。それは、料理を楽しくするものではない。(72ページより)

知ってて好きなジャンルのものほど、ランキングって見ないものです。




オフィスの内装デザインについての考え方も鋭い。

大事なのは、きちんとロジックがあることです。でも、残念ながら日本には、建築の世界でもアーチストがたくさん混ざっている。デザイナーとアーチストはまったく違うんです。ロジックがあるのがデザイナー。なぜこのドアはこっちに開くべきなのか。軸はどっちにあるべきか。導線の取り方や視線の取り方。それをプロのデザイナーはよくわかっています。ロジックのないアーチストには、僕はまったく興味がありません。(164ページ)

ここはヨガの指導でも同じことがいえるので、すごく共感。指導の流れのテンプレートが決まった場所で指導をするときも、個人で構成して指導するときも、エネルギーの流れと設計を理解しているかって、とても大切だと思うんです。そもそもインド4000年の伝統の上にオリジナルなんてないから。でもヨーガの設計と現代の人間の設計を理解していたら、「いまの最良の瞬間」は作れると思います。



広告の考え方も、魂を売らずに丁寧に進めて「定番ブランド商品の需要底上げ」「ロングテール商品の再評価」「新商品の垂直立ち上げ」に大別できるようになっていったそうです。
わたしはこのなかでも「垂直」に曇りがないことって、すごくむずかしいと思っています。「新しいもの=開発の時点で思想がねじれていないもの」ばかりではないから。競合が出したのでホワイトスペースを自分のところから奪われないために作る製品も多いしね。でも「圧倒的に料理をする人が集まっている」この場でここまできめ細やかにやって無理だったら、正しくあきらめがつくと思うんです。圧倒的に人がセグメントされた場所というのはすごく貴重です。



モチベーションという言葉が大嫌いだというクックパッドの社長さんの思想は、とにかくうなずくことばかり。本来自分で持つべきものを仕事の環境に求めた時点で、それは仕事じゃないんですよね。「仕事風の時間潰し」と「仕事」の違いは可視化のしようがないけれど、ちょっとした所作ですぐにわかったりする、祈りのようなもの。


デザインって、祈りなんですね。
ウェブサービスの勉強と思って読んだのだけど、別の方向でおもしろいことにたくさん気づくきっかけをもらいました。インターネットに関係ない仕事でも、「場」を運営する仕事をしている人には、ハッとすることがたくさん書かれています。


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