うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

不滅の意識―ラマナ・マハルシとの会話

読んでからしばらく時間がたっているのですが、ヨガ友に「あるがままに―ラマナ・マハルシの教え」を借りて読み始めたときに、語彙の使い方の点で「不滅の意識」を先に読んだほうがよいのかも、と思い、こちらを購入。順番的に、「不滅の意識」→「あるがままに」の順で読んだほうが、読みやすいと思います。
ラマナ・マハルシ(ラーマナ・マハリシ)師は「神秘思想家」という解説がされることが多いようなのですが、その教えにヨーガ、プラーナヤーマ、瞑想、真我(プルシャ、という言葉のほうがヨギには身近かもしれません)への言及があります。
何箇所か引用して紹介しますが、まずは冒頭の覚え書と訳者あとがきの一部を紹介しておきます。

<7ページ 第2版への覚え書 より>
読者は、マハルシがこの一連のテキストが示すようなことを声高にしゃべったと信ずるような誤解をしてはならない。むしろ基調となったのは沈黙であった。

<372ページ 訳者あとがき より>
 たしかにこの会話集の質問のなかには、近代西欧人(現代の日本人も含めて)に特徴的な、もっぱら知的好奇心の満足を求めるような質問も含まれているが、これらに対してもマハルシは驚くべき几帳面さで答えている。そして、人びとがすでに真我であるのもかかわらず、それを身体や心と誤って同一視している無知が災いをもたらしていること、したがってこの誤った知識を取り除くことが求められていることを、根気よく繰り返し説いている。この「率直さと明快さ」が、一方でこの書物を読者に親しみやすいものにしていると同時に、他方でマハルシの教えの基調が決して多弁にではなく、逆に沈黙にこそあることを際立たせることになれば幸いである。

マハルシ師さんは「沈黙の聖者」と呼ばれた人なのですが、この本の中では「驚くべき几帳面さ」で、結論ずっと同じ回答を言い換えているような問答が繰り返されます。おだやかで、かつ、すんごい根気。

<18ページ 第1章 毎日の生活 一般的な質問 より>
質問者:ヴィチャーラ(vichara 探求)のためには孤独が必要ですか。
マハルシ:(回答の後半)欲望に執着している人びとは、どこにいても孤独を達成することができないし、一方とらわれのない人びとは、たとえ彼らが仕事に従事していても、つねに孤独です。仕事は執着を伴ってなされるとき、それは束縛です。孤独は森の中でだけ見いだされるべきではなく、世俗の職業の真っただ中にあっても得ることができます。

質問者は、「悟りをひらくために、出家」という名目で現実逃避的なアクションを起こそうとしているという、背景ニュアンスがあります。孤独に耐えられないからそのような発想になっているのではないか、と思うのですが、この質問者は「孤独」を求めています。

<46ページ 第1章 毎日の生活 仕事 より>
質問者:私のヨーガ修行に影響を与えるかもしれないので、私はビジネスに関心がありません。
マハルシ:そうではありません。『ギーター』(第二章)で述べられているように、あなたの観点は変わるでしょう。あなたはビジネスをただの夢という観点から見ているようですが、しかし、ビジネスはヨーガの修行に影響を与えることはないでしょう。というのは、あなたはそれを真面目なものとして精を出して続けていくでしょうから。

これが沖先生や野口先生でしたら、「それは、"ヨーガをしていなかったとしても、私はビジネスに関心をもてません" の間違いで・・・」となりそうなところですが、あたたかいのです。マハルシ師。

<47ページ 第1章 毎日の生活 仕事 より>
質問者:もし、私が他の人以上に私の心を使わねばならないとしたら、どのようにして私の心を静かにしておくことができるでしょうか。私は師のように独居し、仕事を放棄したいのです。
マハルシ:(回答の後半)仕事をしているのはあなたであると思わないようにしなさい。仕事をしているのは底にある流れであるということを考えなさい。あなた自身をこの流れと同一視しなさい。もしあなたが急がされることなく、記憶を保ったままで仕事をするならば、あなたの仕事あるいは奉仕は障害物であるとは限らないのです。

この質問者の質問がそもそも恐ろしく自己評価がご立派なものなのですが、一般的な職場環境で見られるような、いわゆる「仕事のぼやき」も、実はこれと同じこと。という場面がものすごく多いんじゃないかと思います。仕事をほめられたときは "自分がほめられた" と変換し、仕事のしかたを否定されたときに "自分の存在を否定された" と変換する自己比重の多さ。これを、マハルシ師は「仕事をしているのはあなたであると思わないようにしなさい。」と。このメッセージは偉大で、はげみになる。

<第2章 ヨーガとプラーナヤーマ より>
質問者:ヨーロッパ人に勧められる特別なポーズは何かありますか。
マハルシ:それは個人の心の準備いかんによって異なります。定まった規則はありません。時間あるいはその他の付属的な要素によって定まったポーズは、瞑想の修練にとって本質的なものではないことを明確に理解されなければなりません。
 アーサナ(asana ヨーガの体位)はジニャーニ(真我を実現した人)の課程にとって必要不可欠なものではありません。
ジニャーニはどこでも、どのポーズでも瞑想を実行することができます。

  ◆     ◆     ◆

 神の中にとどまることが本当のアーサナにほかならないのです。

「ヨガで、痩せますか」「そのぶん食べていいんだろ、いう気があるかによります。ヨガに限らず」という問答のよう。


<第3章 瞑想の修練 瞑想と真我 より>
質問者:「私は神である」という想念は役に立ちますか。
マハルシ:私はある( I AM )というのは神です──想念ではありません! 私はある をよく理解し、「私は……である」を考えないようにしなさい。それを知りなさい、それを考えてはいけません!「私は私があるということだ( I am that I am )」とは、人が「私」としてとどまらねばならない、ということを意味します。人はいつもその「私」であるだけで、他の何ものでもありません。

この解説が、この本のすべてといってもいいのではないかと思うところ。佐保田鶴治博士(ヨーガ・スートラの日本語訳で知られる、インド哲学学者ヨギ)が、別の本でこの説明をすばらしいものとして引用されていました。

<147ページ 第5章 心 より>
質問者:われわれは「私はエゴではない」と考えるべきでしょうか。
マハルシ:(回答の後半)エゴを取り除くのは、ただ想念によってではなく、経験によって行なうのです。想念のない状態を、深い眠りの中にいること、あるいはトランスとみなさないようにしなさい。(中略)実在でありなさい。そして「私はブラフマンである」と千回以上繰り返しつづけることに時間を浪費しないようにしなさい。エゴはそれ自身の現実の源を知ろうと努力しつづけるにちがいありません。

「エゴは経験で取り除く。」名言。

<243ページ 第10章 宗教の意味 より>
質問者:あなたは、われわれがその内部に神的な中心を見いだすであろうと言われます。もし個々人が中心をもつならば、何百万という神的中心があるのでしょうか。
マハルシ:円周をもたないただ一つの中心だけがあります。内部に深く潜り、それを発見しなさい。
 かれ あるいは 見る者、つまり真我に対して瞑想すれば、すべてのものがそれに変えられる「私」という心のヴァイブレーションが生じます。「私」の源をたどれば、原初の「私は私」(真我)だけが残ります。これは言い表せないものです。

算数的な問いから始まって、この着地。すごい問答だ。

<321ページ 第12章 真我 ハート より>
質問者:どのようにして心がハートの中へ潜りこむのですか。
マハルシ:(回答の後半)すべての教典は、たんにわれわれを原初の源へと引き返させようとするつもりで書かれているのです。なんらかのものを獲得する必要はありません。われわれは偽りの観念と無益な付加物を放棄することだけをしなければならないのです。これをする代わりに、どこかほかの場所に幸福がころがっていると信じて、われわれは何か奇妙なミステリアスなものをつかまえようと試みます。それは間違いです。もし人が真我としてとどまっているならば、そこに至福があるのです。人びとはおそらく、静かにしていることは至福の状態をもたらさないと考えているのです。それは、彼らの無知のためなのです。唯一の修練は、誰のところにこれらの質問が生じているのかを見つけだすことです。

「われわれは何か奇妙なミステリアスなものをつかまえようと試みます。それは間違いです。」というのは、「ヨーガ・スートラ」の教えにもあります。


そもそもマハルシ師のもとへ集まる人のなかに「神秘」を求める人が多かったから「神秘思想家」と言われたのではないのかな、と思うほど、メッセージはいつもひとつ、シンプルなもの。
読みながら、「足るを知る」→「足りているを知る」→「足りている=すでにある」→「いま、"自分"という存在だけは、とりあえず在る。だから考えている」→「在るを知る」→「在る」。こんな思考ループで、ずっとこの問答を追っている自分がいました。
そして、「人と比べて、特別ななにかで在りたい」というのが、そもそもの苦しみの根源なのではないかと。仏教的には「煩悩」か。ヨガでよく言われる教え「人と競わない、人と比べない」、ということを「ただ、がんばらない」ではなく「自分に向き合うことについては、永続的にがんばるってこと」、というメッセージを伝えることの難しさが、読みながら連鎖的に浮かんできました。

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