うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

日々のこと 吉本ばなな 著

日々のこと 吉本ばなな 著
近所に住んでいるユキちゃんちの本棚から借りてきました。いつかの週末に、道場への行き帰りのバスの中で読みました。ひらがないっぱい、行間いっぱいで、ちょっと気持ちがゆるみました、というのはあとがきを読むところまでの話。
この本は売れに売れまくった「キッチン」「つぐみ」が映画化されたりした頃(88年〜91年)のエッセイで、エッセイ自体はなんだかananのコラムを最後に集めたような、「感度の高い人周辺」に期待する人々向けに交流関係が適度に盛り込まれた日記、といったかんじなのだけど(いまはそれが芸能人ブログというカルチャーになったねぇ)、この本の読みどころはラスト。97年に書かれた「文庫版あとがき」。これに尽きる。なので、今回の引用はいわゆる「ネタバレ」ということになりますから、ここまでで「読んでみよう」と思った人は、ブラウザのウィンドウを閉じましょう。

<若気のいたり (文庫本あとがき)より>
私の新人時代にもこういう子供らしいかわいいところがあったのだなぁ、と思う。特徴としては
 1, 気をつかって思ってもいないことを沢山書いてある。
 2, わけのわからない複雑な人間関係にてんてこまいしているが、それを悪くとらないように努力している。
 3, 文章の練り方が甘く、テーマも素人並みにしぼりこめていない。掲載誌や登場人物を意識するあまり、意見が中途半端で読んでいるほうは面白くも何ともない。

というようなことだろうか。人間は歳と共にシンプルになる。今はこのような文章を書いている心の余裕も、こんなわけのわからない人付き合いをしているひまもない。ここに出てくる人たちは今もいい人たちだしほとんどが交流もあるが、そういう問題ではない。私の甘えが見えてくる。私はきっと苦しかったのだろう。


この3につながるその後のくだりとして

そして今の私も、魂的には全くこの頃と変わっていない。どんどん余分なものがなくなり、素になっているだけだと思う。自分の文章をどこまでそぎおとしていけるか、一生かけてとりくみたい。


さらに最後のほうで、この本を書いていた頃、この本の出版社の人と同棲していたことにさらりと触れ、感謝の意がさりげなくそえられています。精神的に律儀な人なんだろうなぁ、と思いました。自分が当時このように思ってこのように書きました、背景はこのようでした、と。
毒のブレンド具合の絶妙さと、自分ではうまくいえないこころの痒い部分をふわりと撫でて去っていくような文章の波に、中毒的にファンになっちゃう人が多かったであろう頃(うちこがまさにそうだったので)の、著者さんのエッセイ。いま読むと、ご本人は無理していたのかもしれないけれど、なんだかベストセラー作家としての「おもてなしのこころ」を感じます。


★ばななさんの他の本への感想ログは「本棚」に置いてあります。


日々のこと (幻冬舎文庫)
吉本 ばなな
幻冬舎
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