うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

くよくよマネジメント 津村記久子 著

なんとなく手にとって読み始めたら自分が過去に考えた問題が序盤にあって、のめり込むように読みました。

著者が20代後半〜30代前半で仕事もプライベートも大変なときに書かれたようで、当時でなければこんな言葉にはならなかったであろう濃さを感じます。

タイトルと表紙からメンタルケアや自己啓発っぽい印象を受けますが、ご自身の心を鋭く見つめて書かれた文章でした。

 

 

わたしがこの本に入り込むきっかけになったのは、ふたつ目のエッセイにあった、このくだりでした。

 余裕のある人は素敵です。ただ、その余裕というものは、自分で演出するものではなく、内面から自然と透けて見えてくるものだと思います。余裕を装う、というと、わたしは、以前インターネットの相談サイトで読んだ書き込みのことを思い出します。

その書き込みは、相談に答える側のものだったのですが、「更年期がないことを嫉妬されるのだが」という相談者に対して、「わたしの母も義母も同じことを言って涼しい顔をしていました。ですが、その時期にはものすごく意地悪でした」と答えていました。

(強がらなくても、みんな必死なので より)

これなんですよね・・・。

わたしがこのブログで更年期について書くスタンスも、まさにこの「余裕を装う」ことへの向き合い方そのものから考えたい、という思いがあります。

 

ヨガは更年期対策として提案されることが多く、よいイメージがあります。実際メリットも大きいと思うのですが、実生活上の問題はその前の自己認識とのすり合わせ。

 

わたしが日々感じるこのようなジレンマを、著者の津村さんは日常的な言葉で書いています。同じ状況の捉え方で視点の違うものにうなずくトピックもありました。

知り合って間もない人からの濃すぎる経歴紹介について、わたしはこれまでリアクションに困ってきて、困る理由を自分の中で処理できずにいました。

 ごくごく飾らない会話をしている和んだ場に、「自分をこのように見做してほしい」という願望を持ち込むことは、正直言って白けることだと思います。自分が自分の人生の主人公であることは当然として、売り込みをする人は、「あなたの物語においてわたしはこういう登場人物として描いてほしい」と要求するようなことをしているわけです。

(「自分語り」で獲得する自己像のあいまいさ より)

そうか、あれは売り込みだったのか。

わたしは無条件で「女のさしすせそ」の日常版のような応対(さすがですね。すごいですね。を言わされる)を求められる場面について、うぐぐと考えることがたまにあるのですが、それが「売り込み」という観点で語られているのが新鮮でした。

 

 

以前著者の小説を読んだときに、「この作家は ”非暴力” について意識的だな・・・」という印象を抱いていたのですが、この本はその思考を見せてもらったような内容でした。

小説だと加害的な立場で設定される人物・状況があるものですが、エッセイとなるとより抽象化され、加害の力を外部に明確に置かない形になって、内省的になります。

自分の心の中で自分自身に向ける暴力について考えるとき、以下の一文はまさにズバリと言い当てられた感じがしました。

心は子供だけど、頭の中身は大人だから、口は達者で、弱っている自分はそのことに言いくるめられそうになります。

(自分という子供との付き合い方 より)

自分で自分をたしなめたり弁護するフレーズをたくさん持ってしまっている大人の脳の現実と、それを制御できない幼稚さのギャップ。

ここでどれだけ “非暴力” (ヨガでいうアヒンサー)を行使できるか。

インナーチャイルドなどのスピリチュアルなワードが出てこないエッセイの、なんと頼もしいことよ。

 

 

「正直」について語られている部分も、ズシンときました。

 自分自身に正直であれ、という言葉は、想像以上に奥が深いものだと思います。ばれないうそを、うそだとわかるのは自分自身だけです。だからこそ、自分を自分自身への絵になる言い訳を吐き出す機械にしてしまってはだめなのです。口がうまいのは、一つのすぐれた才能ではあるのですが、自分自身に対して口がうまくなるのは良くありません。また、表現者の言葉の中に、自分を騙す言葉ばかりを探すのも良くないことです。

(自分自身に「正直である」ということ より)

ガンジーが自伝で見せていたような、自分自身の過去への自責の重さが想像される文章でした。

この本を読んでいると、そこにどれだけの思索と葛藤があったかと畏敬の念を抱くのですが、あとがきを読むと「本書で記述されていることはほとんど、わたしがわたし自身に言い聞かせるようにして書いていることばかり」だそう。

そういうときの言葉って、力があるんですよね。

 

 

軽い気持ちで読みはじめたら、心の課題に真剣に取り組まれている本で驚きました。

ヨガの本を読んでみたけどむずかしいと感じた人に、この本をおすすめしたいです。

非暴力(アヒンサー)と正直(サティヤ)の両立って、こういう内観を経ないと、理解するのはむずかしいと思うから。

字が大きいので、老眼がはじまっているあなたにもおすすめですわよ。