うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

路上の人 堀田善衞 著

ご近所仲間でヨガ仲間、ついでに職場でプロジェクト仲間のユキちゃんから借りました。最近仕事で会える機会が増えて嬉しい限り。
これも絶対自分では見つけないような小説ですが、よい息抜きになりました。十字軍の時代が舞台。ヨナという浮浪人の目を通して時代が描かれています。西洋を舞台にした小説は普段読まないので、はじめは慣れない感じでしたが、いつの間にかヨナというおっさんに吸い込まれていました。
ずっと慣れない感覚だなぁ、と思いながら読みすすめたのは「秘密」の扱い方。日本の古い時代の出来事に比べると、ぜんぜん「秘密」になっていない感じ。日本の「隠密」という行動理念は、地続きではない国ならではの、独特なものかもしれない。
西洋13世紀の時代背景や宗教の歴史を知っていたら、もっと深い読み方ができたのだと思うのですが、うちこはビジュアルの妄想力だけはすごいようで、映画のようにイメージが沸くお話でした。


著者と篠田一士氏の巻末対談に面白いことが書いてありました。著者のコメント部分から。

世界史を見渡してみると、「異端」は常に「正統」という権力に排除されている。お釈迦さんの仏教だって、あれ、インドにおける一種の異端でしょう。そこで、インドから追い払われて、中国、朝鮮、日本に残った。ところがね、おかしいのは日本の宗教に目を向けてみると、法然親鸞にしても日蓮にしても、あれはあの当時の異端ですよ。それが、国家宗教が雲散霧消していくについれて、その異端がとうとう勝って正統になっちゃった。これは世界でたった一つの例ではないかと、僕は思ってます。


仏教の歴史の中で、空海さんの平安時代親鸞さんの鎌倉時代は、今の世の中では全く想像できないような、民衆の「思い」が新たな形で力強く動かされた時代。天皇と信仰がまだ近いところにあって、そのなかで新しい理念が多くの人々を支えたことは、このように指摘されると確かにものすごいことだと思います。
仏教美術を見ていると、豪快さや奔放さ、大胆さは生まれているのに、決して失われない繊細さも素晴らしいことであるなぁ、と思います。
日本人は、本来「守るところは守るけれど、変化に強い」遺伝子を持っているのかもしれませんね。

路上の人
路上の人堀田 善衞

徳間書店 2004-02-17
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