うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

気の発見 五木寛之 著

五木寛之さんの本は、いままで読んだことがありませんでしたが、「声」にはなじみがあります。いつの頃かよく覚えていませんが、いつも聞いていたラジオの深夜番組の一つ前の番組が五木寛之さんの番組(調べてみたら、1979年〜2004年まで放送していた「五木寛之の夜 」でした)で、早めにラジオをつけた時に聞いていたから。
なんだか不思議な雰囲気の喋り方をする人だなぁくらいにしか思っていなかったのですが、その不思議な感覚というのは、「明らかにオッサン」であることは確かなんだけど、年齢や性別の境目がないかんじ。「愛の水中花」を作詞した人であることを後で知りました。美しすぎる松坂慶子様のあの歌いっぷりも含めて、名曲ですよね。

この本は対談なのですが、対話者の望月勇さんという人は、ロンドンを拠点にヨガ気功教室を主宰している人です。ヒマラヤ山中でヨガの秘伝伝授を受けたり、サイ・ババのアシュラムやインド各地のヨガ道場を訪ね歩いた経歴をお持ちです。

今回は、「面白かったところは、全部!」というくらい楽しくイッキ読みしたのですが、厳選して4箇所引用紹介します。

<40ページ 第一章「気の存在」より>
望月:経路の勉強をしていくうちに、中国の呼吸法やインドのヨガに興味を持つようになって、自己流でやるようになったんです。
五木:その過程で、「気」というものを認識されたわけだ。
望月:あるとき、ヨガのポーズで体をねじっていたら、背骨のあたりから、プーンとパンを焼いたような香ばしい匂いがしてきたんです。
五木:自分の体のなかから?
望月:ええ、最初は、てっきり、どこかの家でトーストを焼いている匂いがしているんだと思っていたんですが、いつでも、昼でも夜でもヨガのポーズをすると、匂いがしてきたんです。(中略)もしかしたらこれ、「気」なのかもしれないと思いました。

たぶん人によって違うのだと思うのですが、トーストというのが面白くて。わたしは、こんなにわかりやすく感じられるものは、まだないです。
(2017年追記:──と思っていたら、トーストのにおいを感じたことがありました)

<60ページ 第二章「気の力」より>
五木:よく手かざしや、八卦見など民間療法で病気を治す人は、短命だといいますけれど。望月さんは疲れませんか?
望月:私も最初は疲れたんですが、あるとき、気とは、宇宙の無限のエネルギーではないかと気づいたんです。だから、自分のなかの気がなくなったら、その無限のエネルギーをとり入れればいいと。そのコツを覚えたら、疲れなくなり、かえって元気になりました。
五木:なるほど、宇宙の無限のエネルギーというのは、道教の天地生成の根源、混沌(カオス)の思想と似ていますね。道教では、カオスの「ゲン」というもののなかから生まれてくる気が「元気」で、元気は一切の「元(もと)」であるという考え方をします。

「自分のなかの気がなくなったら、無限のエネルギーをとり入れればいい」というのは非常にためになるお話。前に読んだ「あるヨギの自叙伝」のなかで、断食のヨギ「ギリバラ」が「何も食べていないというけれど、空気中の栄養は摂ってますし」と「それがなにか?」といった印象すら受ける内容があって、それ以来、忙しくて食べる余裕がなくても、深呼吸で栄養を摂るようにしています。「無限のエネルギー」はどんどん使わなくちゃね!

<82ページ 第二章「気の力」より>
五木:私は僭越ながら、治療者と患者のチームワークのなかで、医師や気功家など、治療するほうも、ぎゃくに患者から学ぶということはすごく多いと思います。
望月:そのとおりです。
五木:最近、私は「自利気」と「他利気」という言葉をつくったんです。
望月:仏教では自力と他力(じりき・たりき)といいますね。
五木:ええ。仏教では「自利利他」(じりりた)というんです。自分が修行を積んで、なにか悟りを得たら、自分だけで抱えているのではなく、周囲の、まだ悟りきれていない人にそれを伝えるという大乗菩薩道の基本思想なんです。利他というのは、仏教でいう菩薩行という仕事になる。
菩薩というのは、仏如来になっていない前段階で、たくさんの人びとに一所懸命奉仕し、救うことで自分も仏になれる存在なんです。菩薩行をすることは、ほかの人を同時に救うことで自分も仏になれる存在なんです。菩薩行をすることは、ほかの人を救うと同時に自分が救われる道なんですね。

仕事の上でも、日常生活でも、なんだかなぁと思うときは「菩薩行! 菩薩行!」と自分に言い聞かせれば、心は平安ですね。

<137ページ 第四章「気と治療」より>
五木:私はずっとむかしに、パーティで、三島由紀夫さんと会ったことがありました。三島さんは半袖のポロシャツをめくって、腕に力こぶをつくって、「五木くん、見ろよ。どうだい。触ってみろよ」と言うんです。二の腕はかちかちで、すごい筋肉だった。「いや、三島さんすごいですね」と感心したら、三島さん、うれしそうに「すごいだろう。鍛えればここまでなるんだよ」とおっしゃいました。私は背が低いほうで、多くの場合、相手を見上げるような格好で話をするんですけれど、このとき、私が三島さんを見下ろしていたんですね。
望月:三島由紀夫さんは小柄だったんですか?
五木:ええ。そのとき、私がなにを感じていたかというと、「そうか、筋肉は増強できるけれど、背は鍛えても高くならないんだ」と。つまり、人間にはできることとできないことが、厳然とあるのだということを悟ったんです。

「想像つくなぁ、三島氏・・・」という単純な面白さだけでなく、「そうか、筋肉は増強できるけれど、背は鍛えても高くならないんだ」という五木氏の反応というか、これ例に出しますか! というところが痛快。
うちこの大好きな映画に「黒蜥蜴」(江戸川乱歩原作)という映画があって、美輪明宏さんがまだ丸山明宏だったころの映画で、そこのなかに、「筋肉モリモリの生銅像」みたいな役で、裸身の三島由紀夫さんが熱演?!されています。
なんでそんなシチュエーション? というのは、これ乱歩独特の世界なうえに、三島氏自身が戯曲化した映画なので(笑)。深作欣二監督ブラボー!な名作です。しかも音楽は富田勲氏。みどころはなんといっても「松岡きっこ」なのですが、残念ながらDVD化されていません。
そのとき、「ここ笑うとこ?」と思いながら観ていたことを思い出して、おかしくなりました。「三島氏・筋肉ブーム」リアルタイムのエピソードが読めて面白かったです。


一番最後だけ、おもいっきり趣味の世界での感想になってしまいましたが、「気」と「ヨガ」について楽しく学べる偉大な一冊。通勤中に楽しく気軽に読めますよ。

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★おまけ:五木寛之さんについては過去に読んだ本の「本棚リンク集」を作っておきました。いまのあなたにグッとくる一冊を見つけてください。