うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

あゝ野麦峠(映画)

出稼ぎの往来ルートの過酷さと季節ごとの景色の違いなど、さまざまな対比を巧みに組み合わせながら当時の多くの情報を伝えてくれる、すばらしい映画でした。
ひとことでいえば当時多くあったブラック企業の現場の話なのだけど、社会背景もていねいに説明されていて、ロシアとの戦争の勝利を支えたのは君たちだ!と社長が女工たちを賞賛してキャーッと盛り上がる場面が特に印象に残ります。社会をひとつの方向へ向かわせようとするときのムードがリアルに伝わってきて、たまに譬えられる「まるで野麦峠」という意味がよくわかりました。

 

5年縛りの独占契約や親にとっては高額な違約金、帰省時の引き抜き合戦、器用で技術力の高い女工はナンバー1・ナンバー2として称賛され、逆の者は低技術を罰として給料から天引きされる給与体系、高い技術力は海外輸出できる商品レベル、そうでなけれな国内レベルという格付け…。いまの時代も能力主義・人気商売のベースはこの仕組みが下敷きになっているけれど、それが当たり前に見せしめとして用いられる雇用形態。
帰省する家のない子もいて、お助け小屋のおばあさんが「多くの女工が孕まされて…」という話をする場面や、女工が高給取りになることで酒浸りになった親族が狂っていく様子はまるで芸能の仕事についた人の話のようでもあり、華やかさとその代償のようなものも描かれています。
生まれつき手先が不器用であることを働き始めてから知る人の末路はあまりにも無残で、ミスマッチどころではない職業選択・境遇がきつい。

 

少女の過酷な労働話といえば「おしん」を観てきたわたしですが、この「あゝ野麦峠」はノンフィクションのルポルタ-ジュがベース。現実にあった歴史の話です。
そのときは工場の臭いになんとか耐えていたけれど直後に思わず嘔吐してしまう伏見宮殿下・妃殿下が見学に来る場面で着ている衣装と、冒頭・ラストの舞踏会の衣装のモダンさ、飛騨の村民の服のディテール、宿場町の賑やかな様子など、それらがすべて同時に起こっていた富国強兵策の時代のギャップはまったくしゃれにならない感じなのだけど、いまもあまり変わらないともいえる。

今は格差が視覚的には見えにくくなっているけれど、仕組み自体はさまざまな業界で見られることで、ものすごく我慢をしている人の笑顔に甘えていれば、その笑顔の資源は命ごと消えていく。サステナビリティの逆を突っ走っている。
家族に嬉しい・助かるっていわれたら、若ければ死ぬまでがんばっちゃうよな…と思いながら観ました。帰る場所のない人のほうがかえって正しい選択をしているように感じられるのも、一周回ってまた苦しい。心の持ちようについて考える材料の多い話でした。

 

ああ野麦峠 <東宝DVD名作セレクション>

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  • 発売日: 2018/06/13
  • メディア: DVD