うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

細雪 谷崎潤一郎 著/映画『細雪』(市川崑監督 1983年)

個人の性格は役割によって作られるのか、ポジションによって作られるのか、時代によって作られるのか。

こんなことを延々考えさせるおもしろ婚活小説『細雪』。

中巻からはまんまと沼にはまりました。映画も観ました。

 

 

原作では戦争が始まる前からドイツ人ファミリーとのフランクな交流が描かれていて、そのドイツ人が後々送ってくる近況報告の手紙にさらっと「チェッコ問題はヒットラーが処理してくれることと、私は確信しております」なんてフレーズがあったりして、『細雪』は当時大いに検閲を受けた小説だったらしいのだけど、この時代の空気を ”お金持ち物語” に練りこんでくるなんてうまい。うますぎる。

 

当時のお嬢さんはおしゃれをするか不調を訴えるか病気をして周囲を振り回すくらいしかやることがなかった。そんなふうに暗に時代を斬っているように見えるのは、わたしが現代の視点で読んでいるからか。

この物語を読んでいると、そういう性格にならざるを得ない状況に三女の雪子自らが向かっていくようにも見えるし、日本人的な甘えやパッシブアグレシブ(受動的攻撃)を日常的に行う性質の権化としてキャラクターが設定されているようにも見え、妹の妙子(四女)との対比が絶妙です。

 

 

現代の読み方として興味深いのは、「細雪 雪子」でウェブ検索をした時の関連キーワードに

 

 

 細雪 雪子 性格

 細雪 雪子 嫌い

 

 

が上位表示されること。

この小説の名称の由来を

 

 

 「繊モンスター子」

 

 

と捉えて読んでいる人が少なくない。

お見合い相手の男性を怒らせてしまった際には、義理の兄が相手にこんなふうに詫びを入れています。

女があの歳になって満足な挨拶一つ出来ないと云うことは、何としてもふつつかの至りで、貴下がご立腹になるのも御尤も千万であり、(以下略)

<下巻18

 

映画では雪子役を吉永小百合さんが上手に演じていて、義理の兄のセリフで彼女の性格が「因循姑息」と表現されています。

わたしは初めてこの言葉を知りました。

 

因循姑息(いんじゅんこそく)<学研 四字熟語辞典>

古いしきたりにとらわれて、なんでもその場しのぎですますこと。また、決断力に欠け消極的なこと。

 

この物語では三女がとにかく優柔不断な性格のように描かれているけれど、よくよく観察してみると決断力・積極性がすごくある四女も “なんでもその場しのぎ” であることには変わりなく、なんなら次女にもそういうところはある。

そして何より、うまくいったことの要因がいちいち語られないのが、この小説のいいところ。

 

人の性格は役割とポジションによって作られる部分が大きいし、時代の影響も受ける。

人間の気質を語ることがバカバカしくなるような物語って、なんか不思議な活力をくれることがありますね。

 

 

 

▼映画の感想はこちら