先月渋谷区の路上でホームレスの女性が殺された事件があって、もうすぐクリスマス。この小説の舞台はパリなのだけど、タイミングが合ってしまったせいで身近に感じないわけにはいかない流れ。パリにある女性のための施設「女性会館」の成り立ち(約100年前)と、今の時代にそこにいる人や働く人の姿が描かれています。
「三つ編み」もそうだったけれど、まるで映画を観ているように滑らかに最後まで読める。ものすごく頭の中に映像が浮かびやすい独特の構成。感情の説明の少しだけやりすぎな感じが読みやすさにつながっているのかな。
この物語を引っ張っていく人物が40歳でキャリアをリセットせざるを得ない流れ、新しい環境で出会う人たち、なにからなにまで具体的なモデルがいそうなリアルさで、でもきれいごとに感じられるところはフィクションぽく感じる。が、何度かは泣かされて何度かはスッキリする。
差し込まれるエピソードの中で登場人物たちがズンバを楽しむ場面があって、初参加の人がインストラクターと会う瞬間がすごくいい。
ここじゃ巧い下手は関係ない、楽しむのが目的だから、と言われる。悩みは持ち込まない。心配事は更衣室においておく。
「楽しむのが目的」ということすらも理解できないということを理解するには「ひとまず、やる」をはじめないとはじまらないのだけど、それをつかむきっかけはほんとうに人それぞれ。インストラクターに言われたことよりも、それをやってみるまでの流れの中に光の差し込み口がある。
ひと一人ってのはほんとうに、それぞれがメモリースティックみたいなものなんだよなぁ。記憶に支配されている。「女性会館」にいる人それぞれが、いつか自分であったかもしれない人に見えて、つらいのだけどあたたかい。ベタな鼓舞のしかたではあるけれど読み終わった後の気分がよいのだから、こういう形でのデトックスはやっぱり有効なのね。
- 作者:レティシア コロンバニ
- 発売日: 2020/06/18
- メディア: Kindle版