うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

ブッダが説いたこと ワールポラ・ラーフラ著 今枝由郎(翻訳)

ふらっと入った古本屋で見つけ、読んでみたらすばらしい内容。この夏いいことあったわぁ、という思い出になりました。もしヨーガから仏教に興味が湧いたなら、まずこの本をすすめたい。ヨーガと原始仏教の混ぜてはいけないところがすごくよくわかるように書かれていました。
この本は二つの意味ですばらしい構成です。ひとつめは、とても現代的かつ余計な類推を誘わない無駄を排除した解説でブッダの教えが読めること。これはもとの著者(ワールポラ・ラーフラ氏)の力。ふたつめは、雑に混ぜてはいけない背景を日本語訳者(今枝由郎氏)が強く意識していること。たとえばドゥッカはカタカナでドゥッカのまま訳されます。無理に英語や漢字やひらがなで表わせる日本語にしない、そういう配慮がされています。

 
解説で訳者が、以下のように重要な指摘をされています。

著者は「まえがき」で、「仏教に造詣はないけれども、ブッダが本当に何を説いたのかを知ろうとする、教育があり、知性のある一般読者を対象にして著した」と記している。日本人で仏教にまったく造詣がない人はいないであろうが、問題はその「仏教」である。日本人にとっての仏教は、よきにつけあしきにつけ、あくまで「日本仏教」であり、この仏教はブッダ・シャーキャムニが説いた教えを含んではいるが、大きく逸脱したところもある。その結果、この類の「仏教の造詣」は、本書に書かれている仏教の理解・発見にとっては障害になる可能性が高い。

冒頭の著者はラーフラ氏を指していています。そして、この引用部分のあとに訳者は「既成概念を白紙にして初心に戻ることが重要だ」と書かれています。


わたしはこの混同の度合いについて、自分でもドツボにハマってどうしたものかと思ってきたのですが、この本にあった以下の部分で頭を整理するヒントを得られました。

アートマンに関する誤解(二)
 ブッダの教えに自己の考えを導入しようとしてよく引用されるもう一つの句は、『マハーパリニッバーナ・スッタ〔大般涅槃経〕』の中の有名な「アッタディーパー・ヴィハラタ・アッタサラナー・アナッニヤサラナー」である。この句は、「自分自身をよりどころとし、自分自身を避難所とし、他の誰をも避難所とすることなかれ」という意味である。仏教の中に自己という概念を導入しようとする人たちは、この句のアッタディーパーとアッタサラナーを、「自己をよりどころと見なす」「自己を避難所と見なす」と解釈している。この句は、ブッダがアーナンダに授けた助言であるが、その背景を理解しない限り、その本当の意味は完全にはわからない。

 

(中略)

 

 ブッダがアーナンダに伝えようとしたことはきわめて明らかである。アーナンダは悲しくて、気落ちしていた。アーナンダは、偉大な師が亡くなったあとは、彼らは全員避難所もなく、師もなく、ひとりぼっちで、途方に暮れると思っていた。そこでブッダは、彼を慰め、勇気づけ、自信を持たせるために、自分自身とブッダの教えを頼りとし、他の誰にも、他の何ものにも頼ってはいけないと言った。この文脈に、形而上学アートマンを見出すのはまったく場違いである。
 さらにブッダはアーナンダに、身体、感覚、心、心の対象に対する正しい思いによって、いかにして自分自身をよりどころあるいは避難所とし、ダルマをよりどころあるいは避難所とするかを説明した。ここではアートマンあるいは自己は一切話題となっていない。

 「自己をよりどころと見なす」という日本語から連想される仏教以外の教えで言うと、バガヴァッド・ギーターの第6章5節がすぐに思い浮かんだりしますが、原文の自己はアートマン。このような混同しやすいものがあちこちにあって、いずれもその教えの背景・関係性・文脈の理解が欠かせない。

自分がすばらしいと思った教えに共通性を見つけ、その発見をなにかの手柄のように喜んだりしている心もまた、なにかを満たしたいという思いから生まれている。なにかと関連づけて理解しようとするしか方法を持たないまま進むと、混同への内省意識が薄くなる。自分が書いた過去の文章を読むと、それがよくわかります。共通例を見出すことと紐づけることはまったく別ものなのに、注意が散漫になるとその境界を踏み越えてしまう。(この紐づけの心のやっかいさについて、先日書きました
ヨーガの教典の訳本や解説本を読んでいると、その単語の使い方が逆に仏教の理解を曲げてしまう現実もあるように思います。いずれにしてもこの本にあった「アッタディーパー・ヴィハラタ・アッタサラナー・アナッニヤサラナー」の例は指摘としてとてもわかりやすいものでした。

たまたま古本屋で買った本だったのだけど、これは保存版。ヨガにも仏教にも興味があって理解がごちゃごちゃになっている、という人が手元に置いておくのに最適な本です。

 

ブッダが説いたこと (岩波文庫)

ブッダが説いたこと (岩波文庫)