はぁ。これまたため息がでるほどすてきな小説でした。
印象深いシーンもセリフもたくさんあるなか、全体として共感するのが「あこがれ」であったりする。
同級生の男の子と女の子が主人公なのだけど、女の子の特殊技能を見て「これはすごい!」となる感情に、モリモリとする元気ななにかを掻きたてられた。身近な人に圧倒的な尊敬の念を抱くときの、あのなんともいえぬ歓喜よ! この話は小学生同士だからその技能ってのはモノマネだったりするのだけど、抱きしめたくなると同時にその抱きしめたくなる相手は子どものころにいろいろなことを言語化できなかった自分。
満月がどうとか言いあっておしゃべりをして過ごしているスピリチュアルな人々への言及は「すべて真夜中の恋人たち」の序盤で石川聖さんが展開してくれたものからもう少しだけ、ググッと踏み込んだ感がある。ものすごく悲しんだり反省したりすることが自然であろう不幸なことがおきても「最高の浄化」と言ってしまう人の描写とか、髪はぼさぼさで眼鏡をかけて、くたくたのTシャツを着て半ズボンをはいて黄色の財布を手にもっているクレーマーの男とか。
いちばん沁みたセリフは、これ。卒業をたとえに語る主人公の女の子のこんな指摘がどうにも刺さる。
会うための約束が必要になって、その約束をするための約束みたいなのも必要になって、どんどん会わなくなっていくんだよ。
スピリチュアルなあれこれも、「会うための約束をするための約束」をなにかに棚上げしようとしたひとつの形式(儀式)かも。
小学生の学校習慣や動作の細かいこんなところも、なつかしい感情をぐわっとひっこぬく。
靴をはいて、みんなでしつこくばいばいと言いながら運動場を門までゆっくり歩いていると
そう。しつこくするんだ。ばいばいを。クロージングするという意識がふわっとしてるから、楽しいエンディングがすこし優位な感じがずるずる続く。
今日の画像はわたしのKindleの起動画面。「あこがれ」の右下の「すべて真夜中の恋人たち」は仕事の昼休みにぺろんと開いてかれこれ3回読んでいるのだけど、この「あこがれ」もくりかえし読むことになりそう。(「あこがれ」は2回目に入っています)
川上未映子さんの文章を読んでいると、ひとりじゃないと思える感がものすごい。やさしいとか繊細とかとはちょっとちがう、いとうあさこさんが大きな声でいう「生きてる!」みたいな感じがするんだよなぁ。
でありながら、すごくおしゃれ。外国の小説っぽいのです。かわいらしいのに、ぐぐっとどこかをえぐってきますよ。
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