うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 米原万里 著


ものすごい観察眼と魅力的なセリフの応酬、リアルすぎるストーリー。こんな小説って、可能なのか! と思いながら読みました。
ヨーロッパの紛争とそれに伴って起こる各国民の感情がさまざまな角度で描かれ、多くの感情が残像のように残ります。主人公が著者なので、自伝のようです。女子中高生の青春期を中心に展開していくので、なつかしい感情を思い出してキューンとなります。社会主義の話なので、登場人物が背負っている感情や背景の複雑さに想像力も要されます。
3人の友人との3つのお話すべてが繋がっていて、最後の「白い都のヤスミンカ」は、かなりジーンときました。


13歳のとき、主人公のマリ(著者)は、こんな思いをしながら学校生活を送ります。

 毎日、ソ連人の子どもたちと机を並べて学んでいた私は、ソ連共産党機関紙『プラウダ』と日本から半月遅れで届く日本共産党機関紙『アカハタ』とを目を皿にして読み較べた。お互いを罵り合う、その憎悪の激しさにショックを受けた。
(白い都のヤスミンカ より)

1991年に勃発したユーゴスラビア紛争のあと、主人公が現地で感じたことも書かれています。

ロシア語が理解できる私には、西側一般に流される情報とは異なる、ロシア経由の報道に接する機会がある。だから、「強制収容所」も「集団レイプ」も各勢力においてあったことを知っている。
 にも拘らず、セルビア人勢力のそれだけが衝撃的なニュースとなって世界を駆けめぐり強固な「セルビア悪玉論」を作り上げてしまった。
(白い都のヤスミンカ より)


今のわたしはニュースを見て、今でこそ「意図」まで推測するけれど、子どもの頃のニュースは作り上げられたものをそのままインプットしています。情報の認めかたについて年々思うことが多くなるなか、こんなふうに小説の形で表現したものがあることに感動しました。
登場人物たちのセリフも、格言のようなものが多いです。
なかでも、最後の話に出てくる、かつては絵が天才的にうまかった友人ヤースナの、大人になってからのこの言葉が沁みました。

創作は、自分しかいないと思わないと、できないのよ


よく「打ち込めるものを見つけられない」と言っている人がいるけれど、そういう気持ちとこのヤースナの言葉は、つながっている気がする。わたしも、いま夢中になっていることは「他にやっている人がいないから、やる」という思いが、理由としてかなり大きい。


「ああ、なんかわかるな、この気持ち」というのが、絶対に同じ状況にはならない設定のなかにたくさん出てきます。涙する人も多いはず。おすすめです。


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