シンプルなたったひとつのことを考えるために、文字だけでこんなコントのような世界に連れて行ってくれるなんて。
マンガを読むようにページをめくる手は止まらないのだけど、頭の中の音読で鳴り響くリズムはひとつもタイミングがズレずに、読者の脳を主人公と同じリズムでズズズと崩壊させていく。催眠術師のようだなぁ。
「勝手にふるえてろ」のような比喩のおもしろさに加え、「キレる」の段取りの刻みかたがいい。キレるというのはバチーンと切れるのではなくジワジワとちぎれていくもの。それでもビリッといくタイミングはあって、だから結局は「キレる」のだけど、だからってやっぱりバチーンではない。この主人公もバチーンとはいかないのだけど、ビリッといったタイミングの発言が自分の耳から入ってきて、その音を聞いて転げるようにキレキレキレキレキレレレレレロロロロガオオォーーーとつながっていく。
この描写がとにかくすごい。これは読まないとわからない。あなたの目で追わないとわからない快楽です。ぜひあなたもご自身の目で味わって。
痛飲、痛姦、痛狂踊。痛いほどじゃなきゃ気分は晴れない
というところまで「慈悲」というものがこの世にある前提で苦しんだ主人公が
困っている人はいても、かわいそうな人なんて一人もいない。
という認識にいたるまでの物語。
だから「かわいそうだね?」なのだけど、ネタバレもなにもない。
この本は、読みながら自身の脳波のリズムを作者に明け渡してしまうことがもはや快楽。
伏線のなかでは英語のexのくだりがすき。小ネタもおもしろい。
いっしょに収録されている「亜美ちゃんは美人」もスピリチュアルにハマる人の描写がモーレツにうまくて爆笑。
どちらの物語も「あの、いや〜な感情」を描いているのに、これだけ笑わせてくれるって、すごいセンスです。
こりゃおもしろいわ!
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