少女マンガのような、ラブコメディのような軽さなのだけど、ところどころ主人公が自身の高揚感に水を差す脳内セリフがいい。
こんなふうに。
- 傷つかないためだったら、大抵のことが出来てしまうのが自分という人間だった。
- やってみて初めてわかる。男に媚びると、自分がすり減る。
ものすごく軽いお話の中に、たまにズドンと杭を打ち込んでくる。わたしも日常的にこういう熱量の下げかたをするので共感する。
この作家さんの作品は、キラキラ・バージョンもドロドロ・バージョンも同じメッセージが根底にあるので、読むと元気が解凍される。そのメッセージがこの小説ではわかりやすく何度も出てきて、ストーリーともリンクしている。
自分の心にねじを巻いてくれるのは、自分だけ
この小説はキラキラ・バージョンではあるけれど、いつまでも「なんかいいことないかな」と思っているだけの人はおきざりにして、きっかけを得たらその後は自家発電ができる人に光を当てている。
わたしがこの作家さんの小説を読むと疲れがとれるのは、「自家発電する人が好き」であることが伝わってくるから。「なんかないかな」とか「こんなことって、可能かしら?」という、ぼんやりとした欲求をいつまでも素振りのように続けるマインドを、ほんのりとした火力であぶりだす。現実逃避したい人にはちょっと不快で、現実に戻りたい人にはちょっと快。
角田光代さんの小説が「ぼんやりとした欲求をいつまでも素振りし続けることをやめる瞬間の狂気」を書いているのと、満たされるポイントの根が似ている。