「マチ」は街ではなく、「待ち」。
だいたい、暗い。でもだいたい、人間と一定量以上付き合うと、そんなことになっていくのだと思う。
景色は特に暗くない。思考が暗い。喫茶店がよく似合う。どの話にも喫茶店が出てくる。喫茶店に行きたくなる。
「それは苦しいねぇ、しんどいねぇ」と思いながら一話ずつ読んだ。「待つ」ということをあまりしないわたしも、待ったらしんどいことが想像できて、いっしょに苦しくなった。
主人公たちが絶望しすぎず、「なんかこれは残念ではあるが、こんなものか」というスタンスがいい。女性のめんどくささ炸裂! という話もありつつ、他力本願な一発逆転を狙わない堅実さを兼ね備えている。短編なので、どの主人公も大幅に狂わないまま終わる。
いつものことだが、ほんの少しの描写のなかに、「うわぁ。それ、こういう設定なら言語化できちゃうのね」というのが飛び出す。
ああ、そうなんすか、へえ、そうなんすか、平内が相づちを差し挟む。彼の相づちは、なぜか嘘をついている気分にさせる。
(ワタシマチ より)
自分の言う事はなんでも聞いてついてきそうな人との会話。「嘘をついている気分にさせられる」のは、「嘘をつきたくなる」の逆サイドにふりきったしんどさ。
(二人連れの女性同士のかたほうが店員に「アンニュイですね」と言われた後の会話)
「アンニュイだって」
「馬鹿ね、お世辞だよ」
「お世辞ってへんじゃないの」
「どよんとしてますね、ってのを、横文字に置き換えただけだよ」(ゴールマチ より)
横文字に置き換えてしまうよね。うん、うん。
私という人間はよほど楽観的なのか、それとも、いってはいけないと本能が察知する方向に足を踏み出す習性がこびりついているのか。
(ワカレマチ より)
明るいのに運命論者的な自己責任感がいい。
「淡いアップダウンしかないことによって麻痺してしまった何か」に気づく人たちの話でした。
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